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紅い月夜の人狼 前編

紅く染まった三日月が、辺り一面に茂ったススキの穂を紅く染めた夜。

そのススキの海を泳ぐ様に、二筋の何かが蛇行して森を目指して駆けていく。


「血の匂いがする…追われているね。」


森の入り口。大木のポプラの上に立ち、その光景を観ているのは、漆黒の衣装を纏ったギルドシリウスのマユミとアイである。


「もう少しで草原を抜けるわ…子供!?」


「…行くよ」


シュン…シュン…シュンとまるで瞬間移動でもしている様な二人の動きは到底目では追えない。


子供は草原を出て直ぐに、何かに射られたのだろう、急に失速するともんどり打って転がった。


マユミ達は数百メートルを一瞬で詰めると、逃げている子供を庇うように立ち塞がる。


アイはキン!と一太刀を受けると、チッチッ!チッチッ!!と二の太刀、三の太刀と受け流す。


マユミは力尽きて倒れた子供を脇に抱えると、景色に溶けるように姿を消した。


「…人狼…か?…何故子供を殺すのか!」


「ガァァーーッ!!」


「ふん、理性を持たぬ獣か…」


アイはマユミが充分に距離を取ったと確認すると、正面から人狼に急接近して短刀を薙ぐ。


当然それを受けようと爪をかざす人狼であったが、何とアイはそのまま人狼の身體をすり抜け消えた。


嗅覚に優れた人狼である。幻術の類いでないのは理解しているのであろう。次の攻撃に備えて辺りを探るが、アイの匂いは自分と接触した所で途絶えていた。野性の本能が遥か格上の敵に対して警鐘を鳴らしているのであろうか。それ以上の追跡はせずに、そのまま後退りするようにして紅いススキの海へと消えて行った。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「…毒は無さそうだね。傷は急所を外している。この子強いね。」


「あちゃー、結構刻まれてるね。暫く動けないわね。」


「結界を張って式神を飛ばした。先程程度なら何匹来ようと問題ないよ。」


アイは肩を竦めて見せると、数日雨風を凌げる寝床を確保する為に森へと消えて行く。


「…さてさて、今度はどんな厄介事だろう。」


マユミはそんな愚痴を零しながらも、手早く傷の処置をしていく。かなり血を失ってしまった為だろう。ガタガタと震えるその子供に自分の上着を掛けて、すぐ側に焚き火を起こすとその火で湯を沸かし始めた。


「…余り見た目に惑わされるのも考えなければな。悪い癖だ。」


口に出して言ってみたのは、以前の痛い経験が頭を過ったからだ。それでも、マユミはこの子から嫌なものを感じなかった。


沸かした湯で丸薬を溶いて子供に与える。少し口元から溢れていたが、助けてくれた事を解って居るのだろう、決して飲み易いとは言えない泥の様な薬湯を必死に飲み込んでいた。

飲み終えた直後は、少し意識が戻ったせいで痛みが襲って来ている様であったが、次第に薬湯が効き始めると眠れたようだ。

マユミがその小さい手に触れてみると、縋るように握り返している。どうやら年相応に子供の様だ。


「隊長、向こうにお誂え向きの横穴があるよ。移動しよう。」


アイが良い場所を見つけて来たようである。


「あらあら。隊長に懐くなんてマニアックな子供ね。」


しっかりと握られた手を見て冷やかされるが、マユミはどこ吹く風である。


「フフフッ、そういう所ですよ。隊長は御父上にそっくりですね~。」


これには流石に少し口元が引き攣ったが、サッと手を払い焚き火を消すと、


「さて、行くよ」


もう取合いもせずに子供を抱えて立ち上がる。

アイはやれやれといった感じに肩を竦めると、水鏡を作るのだった。




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