表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

結びの旅館

アイはマユミから神代の神々と龍の唄を聞かされて、すっかり心を奪われてしまった。更に、何とその物語は実話であると教えられたのだ。

その世界を一目見たいと結びの回廊へと入り、マユミと共に今迄長い旅をして来た。

しかし、もうその夢は叶わない…。


マユミは、父に聞かされた恵みの大地を夢に見て、その素晴らしい神代の物語を唄にした。

そして、自分も恵みの大地に立ち、その地の空気を吸い、水を飲み、人々と語らい、それらを新しい物語として唄いたかった。決して終わらない唄を…。

だが、マユミが愛用の三味線を奏でる事は、もう無いだろう…。


クロの(ほこら)に向かう光の道を踏み締める様に歩くマユミとアイ。しかし、それでも二人に後悔はなかった。


やがてクロの祠が見えて来る。

そこには、黒猫の毛並みと良く似た長い髪を持つ少女が待っていた。


『……無事に(みそ)ぎを終えられたようですね。』


『二人共、此方(こちら)に』


そして、ミケとその少女…クロは並んで祠に向かい祈り始める。


マユミとアイも(ひざまず)いて祈る。


すると、マユミとアイはキラキラとした光に包まれ、その姿は次第に半透明となり、やがて二人を包む光に溶けて消えて行く。


「アイ…ありがとう…」


「フフフッ…隊長ったら、まるでお別れの挨拶みたいですよ?」


そんな声だけを残しながら…。




『マユミさん!アイさん!』


ぼんやりと覚醒し始める意識の中で、誰かが私の名前を呼んでいた。


『ミケ!クロ!やり過ぎよ!早くアコちゃん呼んで来て!』


『シロ様。大丈夫じゃ、もう呼んであるよ。』


私は重い(まぶた)を薄っすらと開け、私を抱えるその声の主を見る。


「……あぁ…りんじゃないの…久し振りね……フフフッ…大きくなったわね…」


『シロさん、ごめんなさい!と、と、止める間もなくって…』


『さあ早く中に運んで!』


私は、かなり消耗してしまったようだ。自分の(からだ)を上手く支える事すら出来なくなっていた。

朧気(おぼろげ)に周囲を見ると、直ぐ側にアイが横たえられて居る。


「…アイ…アイ…やっと辿(たど)り着いたわよ…アイ…」


『マユミさん、アイさんはまだ意識が無いけど無事よ。安心して。』


「フフッ…まるであの時と逆になってしまったね…」


そして安心した私は意識を手放した。




後で聞いた話だが、ミケは供物に髪の毛や三味線、短刀等を考えていたらしい。

私達が戸惑いも無く、両目と片腕を差し出したので、流石に驚いてしまった様だ。


私達の欠損部は、駆け付けてくれた恵みの神様の奇跡で元に戻して頂いた。

大変光栄な事であったが、その後たっぷりとお説教をされたのは良い思い出である。


『全く!その真面目過ぎる性格は宮川さんにそっくりなんだから…。』


と、りんにも怒られた。

結びの宿の温泉の治癒効果もあり、私もアイも今では全快どころか以前よりも体調が良いくらいだ。


アイは恋焦がれた恵みの大地を満喫している様子だ。もうすっかりこの地に馴染んでいる。

今頃はギルドシリウス本部で、次の冒険の準備でも始めているだろう。


そう…

私達の神代の物語は、咲き誇る満開の桜から始まる。

この恵みの大地に立ち、巨大な世界樹を見上げ、龍と語らい、遥かな星の記憶へと…。


三味線を奏で、唄い語り続けよう。


私の子供達に…またその子供達にも、どうかこの幸せが届きますようにと…



最終回まで読んで頂き、ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ