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奇蹟のアンサス  作者: 究極鳥類ハシビロコウ
第1章 旅立ち
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第8話「VS ウィオラ・アクイレギア」

 一同は屋敷の裏庭に集まった。子供も大人も自由にのびのびと駆け回ることの出来る、開放的なそこそこ広い庭。決闘を行うには十分な広さだ。屋敷に魔法が当たることがないよう細心の注意を払い、一同は屋敷から離れた所に陣取った。そんな裏庭で家族と使用人が見守る中、決闘の開始が刻一刻と迫っていた。


「父上。やはり、辞めさせましょう。このようなこと」


 険しい表情で冷や汗を流しながらブランが言った。家族思いの彼にとって、目の前で兄弟喧嘩を見せられるのはこれ以上無い苦行なのである。


「私とて、こんなことは望んじゃいない。だが、今のウィオラは怒りに支配されている。我々が何か言ったところで止まるような状態ではない」


 そう答えたヒューゴの視線の先には、鋭い目つきでルベルを睨みつけているウィオラの姿が在った。獲物と相対した猛獣のような殺気を放ち、その場にいる皆を戦慄させていた。彼の正面、15メートル程度離れた所にルベルが立っている。両者互いに目を合わせ、一切視線を逸らさない。戦闘準備は整っているようだ。


「決着はどっちかが戦闘不能になるか、降参するかだ。安心しろ。時間をかけて痛めつけるなんて、拷問みてぇなことはしねぇ。ただ、しばらくの間半病人みてぇな生活を送る覚悟はしとけよ」


「分かった」


 ルベルは迷わず即答した。彼は既に覚悟を決め、頭の中でどうやって勝つかをずっと考えていた。負けた時のことなど考える余裕は無かった。


(小さい頃に見たから、兄さんの使う魔法はなんとなく分かる。だけど、学校を卒業して以前とは別物になっている筈。それにどう対抗するか)


「いくぞ」


 と、冷静さと怒気が入り交じった声でそう呟いたウィオラは、杖の先端に魔力を集約させ横に薙ぎ払った。すると、前方に強風が吹き荒れルベルを襲う。周囲の木々も、強風に煽られたことで横に揺れ木の葉が舞い散っている。『風魔法』。ウィオラが最も得意とする攻撃魔法である。


「うわっ!」


 ルベルは強風に耐えられず、少し後ろに飛ばされ地面に背中を着いた。先程までの落ち着いた表情が一変、焦りが顔にはっきりと表れた。人が放った魔法を生身で受けるのはこれが初めてだった。


「おいおい、まさか今のでビビって戦意喪失......なんてことはねぇよなぁ」


 ルベルの表情を見てウィオラはニヤリと笑った。つかさず次の魔法の準備を始める。今度は風を杖の先端に集約させた。


「まだくたばるんじゃあねぇぞ。俺の魔法の恐ろしさはここからなんだからよぉ!」


 それは弾丸のように放たれ、ものすごいスピードでルベルに迫っていき、ドンッと鈍い音を立てながら炸裂した。その音を聞いたヒューゴ達は青ざめ、ルベルに直撃したと思い込んだ。しかし現実は、彼らの予想を大きく裏切った。


「!?」


 ルベルは無傷で佇んでいた。彼の正面には、正六角形の小片が蜂の巣のように集まり、大きな壁が形成されていた。半年前、サルバスに教わった防御魔法である。


(なんとか間に合った...あと少し発動が遅かったら吹き飛ばされていたな。にしてもとんでもない威力だ。直撃したら『痛い』どころじゃ済まない。一回でも被弾したら終わりだ!)


 防御に成功したにも関わらず、吹き飛ばされそうな衝撃がしっかりとルベルに伝わっていた。それが、ウィオラの風魔法の恐ろしさを物語っている。


「ちっ、なんだ。防御魔法も使えんのか。思ったよりやるじゃねぇか。魔法学校じゃあ、これを防げたヤツはほとんどいなかった。良かったなぁ、俺と戦って何も出来なかった虫ケラ共よりはマシだってことが証明されて。だが見たところ、かなりしんどいみてぇだな。さて、いつまで耐え......」


「は?」


 一瞬、ウィオラの視界に赤い光が映った。だが、それに気付いた時にはもう遅かった。燃え盛る小さな火球がウィオラの近くまで迫っており、勢いよく彼の腹部に命中しボンッ! と爆発した。


「うおっっ! あっっちいぃぃぃぃぃぃ!」


 その衝撃でウィオラは後方に吹き飛びゴロゴロと地面を転がり仰向けになった。爆発によって、着ていた制服のブレザーが焦げていた。


「よし!」


 ルベルは、簡単な魔法であれば短時間で素早く発動できるようになっていた。劣勢になりつつあるルベルの姿を見て油断し、ペラペラと喋り始めたウィオラの隙を突いたのだ。


「油断したね。兄さん」


 ルベルは攻撃を当てることが出来て安堵していた。しかし油断はしていない。この後のウィオラの攻撃を捌き、自分の攻撃を確実に当てるため、再び自分の勝ち筋を考え始めた。


(おそらく兄さんはこの後、もっと強力な魔法を使ってくる。早いとこイグニス・アニマで決着を着けたいけれど、今回は殺し合いじゃなく決闘だ。人間相手に、相手を焼き尽くす火力を持つイグニス・アニマは使えない。兄さんの魔力は僕の倍以上あるから、長期戦になればこっちが圧倒的に不利。どうにかして隙を作って、何か別の魔法で決定的な一撃を入れないと)


 地面に仰向けになって倒れているウィオラは、自分の置かれている状況を受け入れられずにいた。


(俺は......攻撃を喰らったのか? 今まで一撃も喰らったことのねぇこの俺が!? しかも攻撃したのはルベル? 俺の足下にも及ばない、圧倒的格下のあいつが?......)


 状況を受け入れられたのか、ウィオラは杖を地面に突き立てゆっくりと立ち上がった。             


「俺の制服を焦がしやがって......てめぇが普段着てるボロ雑巾みてぇな服とは、価値がちげぇんだよクソ野郎!」


 ウィオラは、攻撃を喰らい制服を焦がされたことで、怒りが限界突破し五臓六腑が煮えくり返っていた。


「一撃入れたくらいで調子に乗ってんじゃあねぇ! さっき言ったよなぁ? 拷問みてぇに、時間をかけて痛めつけるつもりはねぇと。次の一撃でその生意気な口諸共吹き飛ばしてやる!」


 ウィオラは、1メートル弱ある杖を両手で持ち縦に構え目を瞑った。すると彼の周囲を囲むように徐々に風が発生し、その勢いに従って草木が横に揺れ動き始めた。


「やっぱり! まだ強力な魔法を」


「吹き荒ぶ旋風 濛々たる砂塵......」


「詠唱!?」


 ウィオラが詠唱を始めたと同時に、彼を中心として竜巻が発生した。まるでウィオラを守っているかのように、砂塵を巻き上げながら吹き荒れている。


「まずい!」


 その様子を見て危機を感じたルベルは、魔法を中断させるべく先程の倍以上の大きさの火球を、竜巻へ向けて放った。火球が竜巻に触れた瞬間竜巻は埃を払うかのように、いとも容易く火球を掻き消してしまった。


「そんな......」


「沃野より来たれ 大自然の暴威 悉くを薙ぎ払い 万物は塵芥に帰す 猛り狂え 煮え滾る我が怒りをのせて 『イラ・ヴォルテクス (塵旋風の憤激)』!」


 イラ・ヴォルテクスは、ウィオラが魔法学校在学中に編み出した攻防一体の攻撃魔法。詠唱中は無防備になってしまうという、多くの魔法士が抱える弱点を、自分自身を竜巻で囲い防御することで克服している。その威力は折り紙付きであり、今までこの魔法を防ぎきった者は誰1人として存在しない。


 ウィオラの掛け声と共に竜巻の上部が伸び、ドガガガガッ! と轟音を響かせ地面を抉り砂塵を巻き上げながら、ルベルの方へ勢いよく向かってくる。それはまるで、巨躯の猛獣が獲物へ襲いかかるようであった。その異様な迫力に気圧されはしたが、ルベルは迎え撃つ覚悟を決めた。


「うおおおおおっっ!」


 杖を構え、己の全神経を集中させ防御魔法を発動。半年前サルバスがやったように、防御壁をドーム状に展開した。その直後、防御壁にイラ・ヴォルテクスが衝突。防御壁越しに凄まじい衝撃が伝わってきたが、ルベルは苦悶の表情を浮かべながらも、歯を食いしばりなんとか耐え凌いでいる。


「無駄だ。てめぇのチンケな防御魔法じゃ、イラ・ヴォルテクスを止めることなんざできやしねぇ! 俺はこの魔法で、目の前に立ちはだかった奴らを容赦なく吹き飛ばしてきた。てめぇも今から、そいつらと同じ目に遭う運命なんだよ!」


 とうとう防御壁も限界を迎えピシッ! ピシッ! と音を立てヒビが入り始めた。


(駄目だ、これ以上は!)


 と思ったその時、防御壁が完全に崩壊しイラ・ヴォルテクスはルベルに直撃。竜巻に呑まれその勢いのままバキィィッ! と音を立て後方にある幹の太い木に叩き付けられた。


「うっっ!あがっっっ!」


 激突した部分は大きく凹み、ルベルはズルズルと木の根元までずり落ちていった。幸いなのは、防御魔法である程度耐久したことで威力を軽減できたこと。致命傷は避けたが、ルベルは身体に大きなダメージを負った。しかしウィオラは、そんなことはお構いなしにルベルにとどめを刺すべく再び杖を構えた。


「ルベルーーーッ!」


 ブランはルベルの姿を見て顔面蒼白になって叫んだ。これが決闘だということは分かっている。だが、気にかけている弟が危機に晒されているところを、黙って見ていることなど出来はしない。


「止めましょう父上!」


「あぁ!」


 と、2人は決闘を止めるべく身を乗り出すが


「おい! 何勝手なことしようとしてんだ?」


 ウィオラは2人の方向へ杖を向け動きを止めた。


「それ以上そこから動くな。これは決闘だ。たとえ家族だろうと邪魔する権利はねぇ」


「ふざけるな! あんな状態で、これ以上戦える筈がないだろう!」


「おいおい。ちゃんと状況見てから言ってくれよ親父。俺にだって人の心はあるんだぜ?気ぃ失ってる人間に魔法撃つなんてことはしねぇよ」


「!?」


 ウィオラは呆れた顔でルベルの方を指さした。木にもたれ掛かっているルベルは、辛うじて意識を保っていた。だが、目は半開きで意識は朦朧としている。全身がズキズキと痛み、手足を動かすのがやっとの状態であった。


「ハァ......ハァ......」


 なんとか魔法を撃とうと試みるが、身体に力が入らず狙いが全く定まらなかった。


「決闘ってのは互いが同意し、あらかじめ決めたルールに従って行う神聖な闘いだ。この決闘の決着はどっちかが戦闘不能になるか、降参するかだ。これに対しあいつは『分かった』と言って了解した。意識がある以上は、俺がとどめを刺すか、あいつが降参することでしか終わらねえ!」


 ウィオラは今度こそとどめを刺すべく、再び杖を構え狙いを定めた。ルベル絶体絶命の危機!

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