第4話「才能」
「まず大前提として、魔法を使う者は『魔法士』と呼ばれる。魔法を使うには基本、魔力を体から切り離して放出する必要がある。そして、魔力には2種類の『型』が存在し、これによって魔法士になれるかどうかが決まる」
サルバスは更に続けた。
「1つ目は『放出型』。この型は魔力を切り離して放出しやすい。適性や修錬次第で様々な魔法が使えるようになる。魔法士はこれに該当する」
「2つ目は『一体型』。この型は魔力を切り離して放出することが難しく使える魔法がかなり限定される。その代わり鍛錬を積むと身体能力を強化できるようになる。剣士など近接戦闘を行う者はこれに該当する」
ちなみに、父ヒューゴと祖父アルノルフォは後者である。
(僕のは放出型ってことか......)
「ここまでは大丈夫かな?」
「はい」
「よし、では君の話に移ろう」
サルバスはポケットからメモを取り出した。
「ヒューゴから聞いた話だと魔力量は平均より少し多い程度。適性のある攻撃魔法は『炎』だね」
「はい」
ルベルは少し俯いた顔になった。
彼は幼い頃、水晶に手を当て自信の魔力量と攻撃魔法の適性を調べていた。
「ウィオラと比べているのかい?」
「......」
兄ウィオラは幼い頃から優秀だった。性格は悪かったが、頭が良く魔法の才能にも秀でており、魔力量も常人の倍以上であった。彼の魔法の才能には父ヒューゴも驚愕し、ウィオラが成長したら必ず王都の魔法学校へ入れると決めていた。ルベルが自信を持てなくなったのは、魔法をはじめとする様々な分野でウィオラに劣っていたからである。
「兄弟として生まれてきた以上、比べられるのは避けられない。君の気持ちもよく分かるさ。だが落ち込むことはない。魔法士は才能が全てという訳じゃあないからね」
「僕、魔法士としてやっていけるんでしょうか?」
「大丈夫さ。私がどうにかしてみせる」
サルバスは笑顔で励ました。
「早速だが魔法の練習を始めるとしよう」
(ゴクリ......)
ルベルは固唾を飲んだ。
「君は魔法を使ったことはあるかい?」
「一度もありません」
「そうか。では初歩的な所からだな。まず利き手を前に出して、頭の中で体内の魔力が手に集まっていくのをイメージするんだ」
右手を前に出したルベルは、目を閉じ頭の中で魔力が右手へ流れていくイメージをした。カッ! とほんの一瞬右手が赤く光ったが、何も起こらなかった。
「あっ......」
「惜しいね。だが、まだ集中力が足りない。それと魔法を使うために1番必要なのは『自信』だよ。自分なら絶対にできるという強い意思。魔法を使っている自分の姿を頭の中で想像するといい」
「はい!」
ルベルの目からは、緊張や不安は感じられなかった。
再び右手を前に出すと、目を閉じ頭の中で魔力の流れと、自分が炎の魔法を使っているイメージをする。今度は先程よりも集中しているためか、眉間にシワが寄っている。
「いいぞ! その調子だ!」
右手からは先程よりも強い光が放たれていた。光は徐々に強さを増していき次の瞬間炎が現れた。それはただの炎ではなく、強く激しく燃え盛る劫火だった。
「やった!」
「これは!」
「ハァ......ハァ......僕出来たんですね?」
「ああ」
ルベルは満面の笑みを浮かべていた。
「これで魔法を使うための土台ができた。今ので魔法を使うまでの流れは分かっただろう。それにしても、君が出した炎......いや、もしかしたらいけるかもしれない。」
サルバスは、考えを巡らせながらそう呟いた。
「?」
「いやね、本来は基礎的なことから教えようと思っていたんだけど、君は僕の想像をはるかに超えて来た。君なら私が考案した魔法を使えるかもしれない」
「!?」
サルバスは魔法の研究者として魔法の起源を探ったり、新たな魔法の開発にも取り組んでいる。
「最近考案した炎の攻撃魔法があってね。まだ試作段階ではあるが強力な魔法だ」
「それ、どんな魔法なんですか?」
ルベルは興味津々だった。その瞳は少し輝いていた。
「炎を一点に集中させ凝縮し、一気に放出する。竜の火炎ブレスを模した火力特化の攻撃魔法。その名は『イグニス・アニマ(火炎の息吹)』」
「!」
「これは威力を重視している関係上、本来ある程度修錬を積んだ魔法士でなければ扱えないんだ。だが先程君が出した炎は、魔法初心者が出せるものじゃない。熟練の魔法士が出す炎だ。それを見て確信したよ。君には間違いなく炎魔法の才能がある」
その言葉を聞いたルベルの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「僕の......才能......」
何も無かった。誰かに誇れる物を持っておらず、劣等感にまみれていた青年にとって『才能がある』という言葉は何よりも嬉しかったのだ。
「でも、なんで今更......魔法なんて使ったことなかったのに」
「それについてだが、君は才能が無かったんじゃなく自分の才能に気づけなかっただけだと思う」
「え?」
「幼い頃に水晶を使ったと思うが、あれで分かるのは魔力量と大雑把な魔法の適性だけだ。水晶で分かるのは、その者が秘めている可能性の一部に過ぎない。結局自分が使える魔法がなんなのかは、実際にやってみなきゃ分からないんだ」
ルベルは衝撃を受けた。もし彼がもっと早く自分の才能に気付いていたら、違う未来があったのかもしれない。
「ヒューゴは魔法にあまり詳しくないから、水晶で出た内容が全てだと思っていたんだろう。ウィオラがあまりにズバ抜けた才能を持っていたこともあって、早い段階で君にはあまり才能がないと判断して、隠れた才能を見つけることが出来なかったのかもね」
ガクッ!
ルベルは突如地面に膝を付いた。
「どうした!?」
「サルバスさん、ありがとうございます。僕、今『生きてる』って感じがします」
ルベルの目からは涙が溢れていた。
サルバスはルベルの方へ歩み寄り、背中へそっと手を添えた。
「断言しよう。君は立派な魔法士になれる。自分に自信を持って魔法と向き合っていくんだ」
コクン。
ルベルはサルバス顔を見ながら頷いた。
「嬉しいのは分かるが、君は前に進まなくてはならない。イグニス・アニマの伝授を始めるとしよう」
ルベルは立ち上がった。その表情は自信に満ちていた。
「さて、イグニス・アニマは強力だが、発動までに時間がかかるし反動もある。素手で放つのは不可能だ」
「え? じゃあどうやって?」
「これを使うんだ」
そう言ってサルバスは右手を前に出し掌を地面へ向けると、掌の丁度真下の地面に白い魔法陣が出現しそこから光を帯びた棒状の物体が出現した。
キンッ! パシッ!
出て来た物をサルバスは右手で掴んだ。それは魔法の杖だった。
「これは......」
「創成魔法。魔力を素に無から物質を生成する。私が最も得意とする魔法だ」
「!」
ルベルは驚きのあまり言葉が出なかった。
「この杖は君にあげよう。強い魔法を使うのに杖は必要不可欠だ」
ルベルは白を基調とした無機質なデザインの杖を受け取った。
「ありがとうございます」
(これが杖......)
「さぁ始めようか」
『イグニス・アニマ』その威力やいかに......