屍の軍隊
ルベル達が地下三階に入った頃、遺跡の入り口付近に転移魔法陣が出現した。
そこから二人の人間が現れる。は黒いローブを着た少女、魔法士のイリス。もう一人はハングマンと呼ばれる大鎌を持った謎の男。
「マジでここにいんのか? そのアンデッド」
「うん、間違いない」
二人は遺跡の入り口へと歩いていく。
「まさか、アンデッド始末するために呼ばれるとはな。嬢ちゃんのとこなら、腕の立つ神聖魔法の使い手なんざいくらでもいるんじゃあねぇのか?」
「確かにいるけど、みんな他の任務で忙しいから。それに、例のアンデッドの始末はわたし達にとってはとても重要。だからわざわざ、メンバーじゃないあなたに声を掛けたんだよ」
「まぁ、これが終わったら望みを叶えてもらうって契約だしな。面倒くせぇがやるしかねぇか」
「何度も言うけど、今回のターゲットはそこらのアンデッドとは格が違う。あなたの力が頼りだから」
「ヘイヘイ、って······んん? なぁ、何か感じねぇか?」
二人は違和感を感じ、入り口の前で立ち止まる。
「うん、僅かだけど魔力の残滓があるね。少し前に、誰かがここを訪れている?」
イリスの肩に留まっている白いフクロウも首を傾げる。
「気のせいじゃないね。ラヴィーナも反応してる」
「先客いんのか。頼むから邪魔しねぇでくれよ」
男は嫌そうな顔をしながらも、渋々遺跡の中へと足を踏み入れる。
彼の名は『ジャック・ヘテロフィルス』。通称ハングマン。200年に渡り、王国の死刑執行人を担ってきた一族の7代目当主。
彼もまた、己の未来のために動き出した挑戦者である。
*
遺跡の地下三階では、ルベルとシャルロットが戦っている。武器を持った大量のスケルトン達が、次々と二人に襲い掛かるが対処には困らなかった。
スケルトンは最弱のアンデッドだ。光に弱いのは勿論だが、打撃にも滅法弱い。彼等は体をバラしても復活するが、骨そのものを破壊されると再生ができない。ルベルは骨を焼き、シャルロットは自慢の蹴りでスケルトンを粉砕していった。スケルトンにとって二人は最悪の相手だ。
だが二人には、体力と魔力が最後まで持つのかという不安が付きまとっていた。スケルトンの数が多く、どれだけ倒しても次々に湧いてくる。
「これじゃ埒が明かない。早いとこ一掃しないと·····!?」
ルベルはおかしな気配を感じた。群がるスケルトンの背後から感じたことのない気配がする。白銀の甲冑ほど強大ではないが、明らかに異質。
目を凝らしてよく見てみると、数十体の新たなアンデッドが出現していた。ボロボロの服を身に纏い杖を持ち、更には指輪や首飾りなどの装飾品を身に着けている。
「まさか······リッチ!?」
「リッチ? リッチって何?」
「元魔法士のアンデッドよ。生前よりも魔力が増えてて、おまけに魔法への耐性がある。マジで厄介なヤツだから気を付けて」
リッチは一斉に攻撃を開始する。彼等の頭上に、雷魔法によって生成された無数の矢が出現。スケルトン達の頭上を通り越して、二人の元へ降り注ぐ。
ルベルは咄嗟に防御魔法を展開し、自身とシャルロットを守った。安心したのも束の間、リッチは次の攻撃の準備を始める。先程よりも強い魔法を放とうとしているようだ。
それを見たルベルは、ラピッド・ファイヤをリッチめがけて曲射撃ちする。無数の小さな火球が弧を描き全弾リッチに命中する。魔法の発動は防げたが、大したダメージにはなっていなかった。
「やっぱり駄目か。もっと威力の高い魔法じゃないと倒せない」
「にしてもスケルトンが邪魔ね。こいつらだけでも、さっきみたいにまとめて倒せる?」
「できるけど、発動まで少し時間がいる」
「任せて。それまで時間を稼ぐわ」
シャルロットは引き続き、スケルトンに応戦する。
ルベルが杖に魔力を込めると、アンデッドの群れの下に八芒星の描かれた大きな魔法陣が出現した。
「何、それ······ルー君無理はしちゃ」
「こっちは大丈夫。シャルはスケルトンをお願い!」
(階段の前でスケルトンと戦った時は、上手く範囲を調節できずに何体か仕留め損ねた。あれは僕の魔力操作が未熟であるが故だ。だけど、先生に習った魔法陣の使い方を組み合わせれば······)
フラム・ヴォルテクスは、大きな炎の渦を発生させ敵を呑み込む上級魔法だ。強力だが、炎の渦の発生場所や大きさの変更には、繊細な魔力操作技術が求められる。
この魔力操作を省略すべくルベルが辿り着いた答えは、魔法陣を使い予め攻撃範囲を設定しておくこと。面倒な魔力操作をせずとも精度と威力を上げることが可能となる。ただデメリットとして、攻撃箇所が相手にバレること、魔力の消耗が大きいこと、発動を途中でキャンセルできないことがある。
「シャル、離れて!」
シャルロットはスケルトンから距離を取り、ルベルの後ろまで下がった。魔法陣の中央で炎が渦巻き始める。スケルトンもリッチも動きを止め防御の態勢に入った。
「フラム・ヴォルテクス(火炎竜巻)!」
中心の小さな炎の渦は次第に大きなくなり、周囲のアンデッド達を呑み込みながら、魔法陣と同じ大きさまで成長する。
「ナイス!」
ルベルの予想通り、大半のアンデットはものの見事に焼却された。
「ハァ、ハァ、上手くいった。これなら全部······!」
次第に炎が小さくなり魔法陣も消える。そんな中、予想外のものが見えた。
「ぼっ、防御魔法!?」
炎が発生していた場所に、ドーム状の防御壁が展開されていた。中にはリッチが1体のみ。炎に呑み込まれる前のわずかな時間に、防御魔法を発動していたようだ。
「いつの間に発動していたんだ······」
「魔法士がリッチになると、魔力量が増えて戦闘能力が大幅に強化される。あのリッチは、生前からかなりの実力があるってことかもしれないわね」
「ただでさえ強いのが、アンデッドになって大幅強化された。だから、フラム・ヴォルテクスにも耐えられたのか」
ルベルは眉間にしわを寄せた。渾身の技が防がれたことに、悔しさを露わにした。
「とはいえ大健闘じゃない? スケルトンを全部倒して、魔法耐性があるリッチを残り1体まで減らしたんだから。それに、今までできなかったことが出来たんでしょ? それで十分よ。ちゃんと進化してるってことじゃない」
シャルロットはルベルの頭を優しく撫でると、一人でリッチの方へと歩いていく。
「あとはアタシに任せて」
「待って僕も······」
「休んでなきゃ駄目よ。今ので大分魔力使ったでしょ? この後あの甲冑と戦うんだから。今のうちに魔力回復させなきゃ」
シャルロットは、リッチとの距離を詰めるべく走り出した。既に防御魔法を解いていたリッチは、杖を構え攻撃態勢に入る。
シャルロットの走るスピードが、予想より速かったことに焦ったリッチは。狙いが定まらないまま、雷の初級魔法サンダー・バレットを数発放つ。小さな雷弾が飛んでいくが、悉く躱されどんどん距離が縮まっていく。
リッチは杖を床に突き立てる。すると、リッチの前の床が隆起し土の壁が現われた。使ったのは初級魔法のクレイウォール。地面を隆起させ壁を創り出す魔法だ。
シャルロットはそのまま壁を破壊し、リッチを仕留めようとしたが踏み止まった。土壁の向こう側から魔力の反応を感じ取ったからだ。
次の瞬間、土壁を突き破って何かが勢いよく飛んでくる。飛んで来たのは水のレーザー。杖の先端で水を圧縮し一気に解き放ったようだ。
シャルロットはそれをギリギリで躱す。若干左頬をかすめ出血したが大した問題ではない。が、躱すのに精一杯で次の動きに繋げられず、シャルロットは床に倒れてしまった。
リッチはトドとどめを刺すため、狙いを定めてサンダー・バレットを打つ準備をしていた。確実に仕留めるためか、溜めの時間を長くし先程よりも大きな弾を生成している。
しかしその時間が、シャルロットに反撃の隙を与えた。傍に転がっていた土壁の瓦礫を手に取り、リッチの杖めがけて思い切り投げつける。瓦礫はリッチの手から杖を弾き飛ばした。
シャルロットは起き上がってリッチの目の前まで迫る。蹴りでリッチの両足の骨を粉砕。ついでに両腕の骨も砕き押し倒した後、頭蓋骨を足で踏み潰した。スケルトン同様、骨を砕かれると再生できないので、リッチはそのまま塵となって消えた。
様子を見ていたルベルは、ホッと胸を撫で下した。
「ふぅ······終わった。さて、次はアンタよ。いつまでも突っ立ってないで、さっさと動きなさいよ」
と最深部の部屋の前に立っている、白銀の甲冑に声を掛ける。その声に反応したのか、甲冑はゆっくりと動き始め、剣を手に取って構える。そして······
「!」
階層全体を包む程の、尋常ではない気迫を前面に出し、戦闘態勢に入った。ルベルとシャルロットは寒気が走り、冷や汗をかき始める。休んでいたルベルは、立ちあがってシャルロットの元までやってきた。
「魔力はどう?」
「まぁまぁ回復した。十分戦えるよ」
二人共構えを取り戦闘態勢に入る。地下三階は重苦しい空気に満ち溢れていた。




