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奇蹟のアンサス  作者: 究極鳥類ハシビロコウ
第3章 古代遺跡調査編
19/20

調査開始

 夜になり、スワ―シャの町は暗い闇に覆われる。二人はブラウ二ーと共に食卓を囲み、至福の一時を過ごした。


 寝泊りする部屋は二階にある一室。中には当たり前のようにシャルロットがいる。ルベルは別々の部屋になるんだろうと思っていたようだが、シャルロットの強い要望で相部屋となった。


 疲労が溜まっていて眠気も限界に達したので、ルベルはベッドに入り就寝しようとするが、しばらくの間眠れなかった。原因は心にあった。遺跡についてブラウ二ーから、『冒険者が皆返り討ちに遭っている』と聞き不安になったようだ。


 更に昼間、夕食の買い出しついでに遺跡について聞き込みをした時、遺跡で死んだ冒険者がアンデッドになって棲みついてしまうという話が飛び出し、それが不安を一気に増長させてしまった。


 一端心を落ち着かせるため、バルコニ―に出ようと体をモゾモゾと動かす。しかしそれによって、隣で寝ていたシャルロットが目を覚ましてしまった。シャルロットはルベルにピタリとくっ付いて寝ていたのだ。


「ん······? まだ、眠れないの?」


「う、うん」


 シャルロットは目を擦った後、ニコリと笑う。


「じゃあ、こうした方がいい?」


 ルベルはシャルロットに抱き寄せられる。


「アタシね、子供の頃から何かを抱きしめないと眠れないんだ」


 シャルロットはルベルの胸に手を当てる。


「ドクドクしてるね。遺跡に行くの怖い?」


「皆······返り討ちに遭ってるって聞いて、自分もそうなるんじゃないかって思ったんだ。僕はまだ戦闘経験が浅い。まだ見たことがないアンデッドを前にして、僕はまともに動けるのかなって······」


「最初は誰だってそうよ。アタシも初めてあの遺跡に行った時、怖くて足が竦んでた。でもね、何度かアンデッドと戦ううちに慣れて平気になっちゃったんだ。だからアタシは、『恐怖は進化の源』って思うようにしてるの」


「進化?」


「ただ酷い目に遭うんじゃなくて、それを克服した先に殻を破った新しい自分がいるって考えたら、段々勇気が湧いてこない?」


「······確かに」


 ルベルはここまでに経験したことを振り返った。


「初めて魔法を使った時も、初めて人を攻撃した時も不安はあった。でも、終わってみたらなんてことなかった。今では息をするように、普通に出来てる」


「そう、だから怖がる必要なんてないのよ。大丈夫、いざって時はアタシが守ってあげるから」


 ルベルの表情が和らいだ。何かに包まれるような感覚に浸り、不思議とルベルの心は落ち着いていった。その内ルベルは、泥のようにぐっすりと眠りについた。


 翌日――。


 スワ―シャの東側に位置する森。獣道を進んだ先にその遺跡はある。外観はボロボロ。かろうじて遺跡としての形は保っているが、ちょっとした衝撃で崩れてしまいそうだ。何のために建てられたかは不明である。


 ルベルとシャルロットは遺跡の前で佇んでいた。


「思ったより小さいんだね。その辺の民家と大して変わらない」


「この遺跡は地下に広がってるの。まだ誰も、最深部まで辿り着けてない」


「今の所何も感じない。アンデッドの気配ってどんな感じなの?」


「吐き気を催すようなおぞましい気配よ。······やっぱりおかしいわね。ブラウニーさんが言ってた通り、気配を全く感じない。前は、この入り口に立ってるだけで感じたのに······」


 二人は恐れず、遺跡の中へと足を踏み入れていった。中は至ってシンプル。火が灯されているだけの、ただの石室だ。部屋の中央に地下へと続く階段がある。


「ここから、地下へ行くんだね」


「ええ。今の時点で構造が分かっているのは、この先の地下一階まで。それより先は未知の領域よ」


 二人は階段を降り地下一階へと進む。


 二人共町中を歩くようにゆったりと進むが、警戒は解かない。地下の構造は簡素なもので、罠や仕掛けもなく所々に火が灯っているだけだった。


「静かだね。恐ろしい程に······」


「アタシも驚いてるわ。前来た時は、階段を下りた瞬間アンデットに出迎えられたのに······」


 それ以降も何も起こらず、何も出てこず、あっさりと地下二階へ続く階段の前に辿り着いてしまった。


「着いた······」


「でも油断はできない。ここから先は未開拓領域、気を引き締めて行くわよ」


 階段を降りて、地下二階へと突入する。景観は、地下一階と特に変わらなかった。未開拓領域ということもあり、より一層警戒心を強めゆっくりと進む。


「待って」


 シャルロットは歩みを止めた。


「何か、先の方から気配を感じない?」


「確かに、ちょっとだけ。でも何なのかは分からない」


 2人が感じ取ったのは、ほんの一瞬皮膚を擦るような僅かな気配。モヤモヤが残る感覚に気持ち悪さを覚える。


「アタシ達の魔力探知じゃ限界ね」


「!、もしかしたら、アレクサンダーなら判るかも」


「って、あの鳥ちゃん?」


 ルベルは魔法陣を展開。そこから大きな翼をはためかせアレクサンダーは現れる。


「お呼びか。我が主様よ」


「早速なんだけど、この遺跡の構造を調べてほしいんだ。この前、シャルのゴーレムにやったみたいに」


「承知した」


 アレクサンダーは、目を蒼く光らせ遺跡全体の構造を解析し始めた。


「この先に下へ繋がる階段がある。その手前にアンデットがいるな。下の階層はここより大分狭いが部屋が2つある。手前の部屋からは沢山の強い気配を感じるな。おそらくアンデッドの大群だろう」


「!······下の階層に引き籠ってたのね。道理で外から気配を感じられないわけだわ」


「それと、最深部の小さな部屋。厳重に閉ざされていて何があるかわ分らんが、ここアンデット達はそこにある何かを守っているようだな。沢山の気配が奥の部屋の前に集中しているように見える」


「すごっ、よくそんなことまで分かるわね」


「我の一番の取柄は、全てを見通すこの眼だ。この程度容易いことよ」


 一行はアレクサンダーを先頭に、地下二階へ続く階段を目指して進む。階段の前以外に、敵がいないことが分かっていたので、警戒する必要もなく楽な気持ちでいることができた。


「主様よ、1つ聞きたいことがあるのだが」


「?」


「何故我に、『アレクサンダー』という名を与えた?」


「あ! それアタシも気になってた」


 ルベルは少し黙り込むと、首に下げているペンダントを握った。


「特に深い意味はないんだ。小さいころからずっと、頭の中にあった名前なんだよ」


 首から下げているペンダントを裏返して見せる。そこには、雑ではあるが『ALEXANDER』という文字が彫られていた。


「何でこの名前が彫られていて、どんな意味があるのかは分からない。これをくれたじーちゃんも

 何か知っているようだったけど、はっきり教えてくれなかった」


「······そうか。すまんな、変なことを聞いた」


 アレクサンダーは深堀せず、納得したかのように会話を止める。何故会話を止めたのか不思議に思ったが、気まずい空気になったので触れないことにした。


「! 見えてきたぞ、下への階段だ」


 一行は地下三階への階段へと辿り着く。その手前には、怪しげな黒い霧のようなものが漂っていた。ルベル達の気配を感じ取ったからか、そこから武器を持った骸骨がわらわらと這い出てきた。スケルトンだ。


「出たわね。全部で······20体? 階段の番人ってとこね」


「ありがとうアレクサンダー。休んでてくれ」


「良いのか?」


「アンデッドは初めてなんだ。僕にやらせてくれ」


「あいわかった」


 アレクサンダーは、魔法陣の中へと消えていく。


「アンデッドって普通に戦って倒せるものなの?」


「アンデッドには色々種類がいて、それによって対処法が変わるわ。スケルトンは一番弱い種だから、普通の攻撃で簡単に倒せる。それからアンデッドの弱点は光。一番効くのは神聖魔法だけど、炎魔法でも十分効果があるわよ」


「わかった」


(今いるのは20体、だがバラけてる。一撃じゃ倒し切れない。今必要なのは範囲!」


 ルベルは杖の先端に炎を纏わせ、スケルトンの方へ薙ぎ払う。炎はスケルトン達を囲むように、大きな渦を形成した。


「フラム・ヴォルテクス!」


 大きな炎の渦を出現させる上級魔法だ。炎の渦はスケルトンを呑み込み、跡形もなく焼き払う。


「よしっ!」


「凄いじゃない! あれだけの数を一瞬で······!」


 シャルロットはルベルを庇うように勢いよく飛びす出す。ルベルの資格から、新たに数体のスケルトンが出現していた。ルベルへ襲い掛かろうとするスケルトンを蹴りで一蹴する。


「ね、弱いでしょ? スケルトン······ちょっと、何これ!」


「うっ!」


 喜びも束の間、二人は表情を歪めた。階段の方から、臓物が飛び出しそうな程のおぞましい気配を感じ取ったからだ。


「これって······」


「下層からの気配ね。ここのスケルトンがやられて警戒を強めたんだわ」


 二人は恐る恐る、地下三階への階段を下りて行く。地獄へと足を踏み入れるような感覚に襲われるが、最深部に辿り着かなくてはという強い意志が、足を動かす原動力となった。


 そして地下三階、最深部手前の部屋。二人は言葉を失った。その目に映った光景は、想像を絶するものだった。


 部屋にいたのはおびただしい数のアンデッド。もはや何体いるのかも分からない。彼らは訓練された衛兵のように隊を成し、ルベル達を迎え撃つ体制を整えていた。


「マジで言ってるの? こんな統率が取れたアンデッド見たことない······」


「一番奥に、明らかに強そうなのがいる。あれがリーダーかな?」


 ルベルが指さす先には、黒いオーラを纏った白銀の甲冑が佇んでいた。大きな両手剣を突き立て、真っすぐ正面を向いている。


「多分そうね。アイツだけ雰囲気が違う」


 二人は戦闘態勢に入った。それを見たアンデット達も各々武器を構える。不死者の群団による狂宴が始まろうとしていた。

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