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奇蹟のアンサス  作者: 究極鳥類ハシビロコウ
第3章 古代遺跡調査編
18/20

邂逅

 その場所に、近付いてはならない


 一度足を踏み入れたら、悲痛な叫びを上げることになるだろう


 苔むした壁面には紋様が刻まれているが、何を意味するのかは分からない。


 祭壇は崩れかけ、灯火はとうに絶えたにも関わらず、毎夜淡い影が揺らめくという。


 人々はこの場所を影の巣窟と呼ぶが、そこに何が眠るのかを知る者はいない。


 それは語らず、動かず、時を重ねながら、何かを守り続けている。


 何があるかは、訪れし者にのみ明かされる。



 フルバ村を出立して3日。ルベルとシャルロットは、南地域最大の街『カメリア』の方向へ進んでいた。カメリアには王都へと繋がる転移魔法陣がある。それを利用し、一気に王都まで進む算段だ。


 道中、災難に見舞われることはなかったが、二人の疲労は限界を突破していた。


「流石に、歩くのはしんどくなってきた。ねぇシャルロ······んっ」


 シャルロットは立ち止まって、ルベルの口に人差し指をあてる。


「その呼び方はダーメ」


「あっそうだ、ごめん······シャル」


「うふふっ、我儘言っちゃってごめんね。初めてのガールフレンドなんだから、徐々に慣れていけばいいわ」


 ルベルを抱きよせ、頭を撫でるシャルロット。ルベルの顔は、噴火寸前の火山のように紅潮していた。


「たっ確かこの先に、小さな宿場町があるんだよね?」


「ええ。もうクタクタだし、今夜はそこで休みましょ。何としてでも、ふかふかのベッドで寝るのよ。もう野宿はまっぴら」


 二人は疲れた足を懸命に動かし、小さな宿場町へ到着する。町の名前は『スワ―シャ』。冒険者や商人が、カメリアへ向かう際の休息地として訪れる場所だ。


 町は綺麗に整備されている。中心には大きな酒場があり、その周りに宿屋と露店が立ち並んでいる。人の往来が激しく、いつも賑わっている活気にあふれた町だ。


 しかし、二人の目に映ったのは、そんなイメージとは程遠いものだった。


「なんだこれ······人が、殆どいない。本当にここで合ってるよね?」


「ええ、間違いないわ。何度も来てるから分かる」


 町は、驚くほど静かだった。外にいる人間は露天商と、そこで物資を調達する冒険者がちらほらいる程度。人の声よりも、風や木々が揺れる音の方がよく聞こえる。


「一体、何があったっていうの?」


「この町に残っているのは、元々住んでいる人だけ。冒険者の殆どは、皆カメリアへ向かった」


「!?」


「誰?」


 突如、背後から聞きなれない声がする。振り返るとそこには、黒いローブを着た少女が立っていた。フードを被っているので顔ははっきりと見えない。肩には1羽の白いフクロウが留まっている。


「あなた達······ここへ来たのは初めて?」


「アタシは初めてじゃない。てか、その前にアンタ誰?」


「わたしはイリス······ただの魔法士。用があってこの町に来ている」


「ねぇ君、さっき冒険者がカメリアへ向かったって言ってたけど、何かあったの?」


「!······動く魔石の反応がカメリアの周辺で確認された」


「動く魔石がカメリアに? 王都の周辺にいるんじゃ······」


「それは半年前の話。動く魔石は少しの間王都の周辺をうろうろした後、移動を始めて王国を徐々に南下。1週間前カメリア周辺に現れた」


「!」


 少女は淡々と話し続ける。


「この町のみならず、多くの冒険者がカメリアに集まっている。あなた達もアレを探しているのなら、カメリアへ向かった方がいい」


「そんなことになってたのか······」


「あ、そういえば······」


 イリスは何かを思い出し、懐中時計を取り出し時間を確認する。


「おやつの時間過ぎてる······行かなきゃ」


「え?」


 その瞬間、イリスの足元に魔法陣が出現。


「じゃあね······またどこかで」


 イリスの姿は消えてしまった。


「消えた!?」


「今の、転移魔法!?」


『転移魔法』。ある地点から別の場所へ、瞬時に移動できる魔法。数ある魔法のなかでも、習得がかなり難しく、使える魔法士はそれだけで重宝される。


「ルー君、あの子の気配に気付いた?」


「いや、話しかけられるまで分からなかった」


「相当な手練れよ、ただの魔法士じゃない」


「この先、彼女みたいな人達と競い合わなきゃいけないのか」


「そうなるわね」


 不安そうな表情を浮かべるシャルロットだが、パンッ! と両手を叩き気持ちを切り替える。


「とはいえ、いい情報が入ったわね。今日はゆっくり休んで、明日出発しましょ」


「そうだね。まずは、今日泊る場所を探さなきゃ」


「あーそれなんだけど······」


「?」


「アタシ、いい場所知ってるんから」


 シャルロットはウィンクすると、ルベルの手を掴み目的の場所へ走り始めた。


 *


 シャルロットに連れられてきたのは、狭い路地にある小さな宿屋だった。近くを通らなければ、絶対に見つからないちっぽけな宿屋だ。


「着いた。ここが今日泊る場所よ」


「なんか、すごい古いけど大丈夫?」


「気にいなくていいわ。中はちゃんと綺麗だし、アタシの知り合いがやってる所だから」


 シャルロットはそう言いながら、ウキウキで扉を開け中へと入る。


「こんにちはー。ブラウニーさーん、いるー?」


「トゥルルルル~ンルンルンルン、はぁ~いどちらサマあぁぁぁ?」


 と受付の奥から、ねっとりとした男の声が聞こえた。


「いらっしゃいま~せ······ってあら! シャルじゃな~い」


「久しぶりー!」


 出てきたのは、アフロ頭で化粧をした高身長の男だった。


「ルー君、紹介するわ。この人はブラウニーさん。前に、アタシが路頭に迷ってたところを助けてくれた恩人」


「はじめまして。ワタシはブラウ二ー。この宿屋の管理に······ちょっと、シャル」


 ブラウニーは突如自己紹介を止め、シャルロットを手招きで呼ぶ


「?」


「ちょっとアナタ、まぁ随分と可愛らしい~子を連れてるじゃないの。仲間? それともまさか······」


「うん、まぁ、仲間というか、ボーイフレンドかな」


 シャルロットは少し照れ臭そうに答える


「ううううっっ、嬉しいわ~あああああ」


 ブラウ二ーは突拍子もなく泣き始める。


「ちょっと、どうしたの急に」


「初めて会った時、殺人鬼みたいな顔してたアナタが、ボーイフレンドを連れて戻ってくるなんて~。これで安心して死ねるわ」


「い、いくら何でも大袈裟よ。嬉しいのわ分かったから、もう泣かないで。ね、ね?」


「はぁ~······コホン。ごめんなさいね。ワタシったら涙脆くてしょうがないのよホント。そういうわけで、この宿屋の管理人をやってるブラウニーよ☆ アナタのお名前は?」


「ルッ、ルベル・アクイレギアです······」


「よろしくね☆ ルベルちゃん」


「よっ、よろしくお願いします······」


(この人、大丈夫かな······いやでも、シャルの恩人だって言うし大丈夫か。うん、きっとそうだ。)


 ルベルは、ブラウ二ーに不信感を抱いた。女の口調で話す男を見たことがなかったので、失礼だと分かっていても、頭がおかしいのではないかと思ってしまった。


「ねぇシャル、ここへ来たということは泊っていくということよね?」


「そう。ここで少し休んで、カメリアへ向けて出発する」


「そうよね~、うーん······」


 ブラウ二ーは考え込む。


「どうかした?」


「せっかく来てもらった所悪いんだけれど、1つワタシの頼みを聞いてくれるかしら?」


「勿論。ブラウ二ーさんのためなら何でもするつもりよ!」


「あ~ら嬉しいわ~。んで、内容なんだけど、この町の近くにある古い遺跡を調べてきてほしいのよ」


「それってまさか、あのアンデットだらけのヤバイとこ?」


「そうそう。あぁ、ルベルちゃんにも分かるように説明するわね」


 ブラウ二ーは、町の周辺地図を持ってきて説明を始める。


「この町の東の森に、超古い遺跡があるんだけど、アンデットが大量出没することで有名なの。カメリアのギルドにも調べてくれって依頼を出して、何度も冒険者を派遣してもらったんだけど、中にいるアンデットが強すぎて、みんな返り討ちに合って戻ってくるのよ」


 煙草に火を付け一服するブラウ二ー。煙を吐き出し話を続ける。


「おかげでギルドもこの町の冒険者も、お手上げになちゃって。幸い、町に被害はないからっていうので放置しちゃってたの。だけれど半年くらい前から、アンデットがめっきり出なくなったのよ」


「噓でしょ!? あんなにいたのに······」


「怪しいと思うでしょ? 一応ワタシこの町の町長だから、何か起こる前にどうにかしたいんだけれど、今は冒険者の殆どが例の動く魔石に夢中で、この町の冒険者もみ~んなカメリアに行っちゃったから、誰にも頼めなくって······」


「それで僕達に」


「そうなのよ~。シャルが強いのは勿論、ルベルちゃんも、杖を持っているから魔法士よね?」


「大丈夫、ルー君もちゃんと強いから」


「ウフフッ、ならお願いしちゃうわ☆ 今日はもう遅いし疲れているでしょうから、遺跡に行くのは明日ね。折角だし今夜は御馳走を用意しちゃうわ」


「やったー!」


 声を上げ喜ぶ二人。道中、携帯食の乾パンと獣の肉しか食べておらず、疲労困憊の二人にとって最高のご褒美であった。


 *


 同時刻、町のほぼ中央に位置する酒場。普段は多くの冒険者が出入りし賑わっているが、冒険者が殆どいない今、酒が好きな住民がくつろぐ場所となっている。


 そんな酒場の端のテーブル席で、魔法士の少女イリスはくつろいでいた。オレンジジュース片手に、大好きなドーナツを頬張っている。


「モグ······モグ······、ゴクン。やっぱり当分補給は大切······ドーナツこそ正義、ドーナツこそ至高。全ての菓子の頂点に君臨する究極の食べ物。ドーナツがこの世界を統べる日もそう遠くはない······!」


 イリスは気配を感じ取った。酒場の扉が開き、異様な雰囲気を纏った男が入ってくる。そこそこガタイがよく大鎌を背負った猫背の男。目元には大きな隈があり、普通ではないという感じがヒシヒシと伝わってくる。


 男はギョロっとした目で店内を見回すと、溜め息をついてイリスが座るテーブルの方へ歩いて来る。


「ひぃ、ふぅ、みぃ······ドーナツ10個。育ち盛りのガキが食うもんじゃあねぇな。健康にワリィぜお嬢ちゃん」


「余計なお世話。ドーナツは最強、異論は認めない。それにあなたの方が、わたしより何倍も不健康そうな顔をしている」


「初対面の人間に『不健康そうな顔』とは、失礼極まってんな。まぁいいや、依頼主様と喧嘩するわけにゃいかねぇ。さっさと始めようぜ、お仕事の話」


「ふふっ。しっかり働いてね『ハングマン』」


 安らぎの町スワ―シャに、死の気配が漂い始めた。

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