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奇蹟のアンサス  作者: 究極鳥類ハシビロコウ
第2章 古代遺跡調査編(仮)
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第11話 おうちに帰りましょ

『フルバ村』 野原を少し進んだところにある、木造の家屋が建ち並び古風な雰囲気漂う質素な農村。村の人々は農作業や鍛冶など各々の仕事に精一杯励んでおり、人口はそれほど多くないが活気に溢れていた。そんな農村の一角にハワードの住む家はあった。


 2人は雑談をしながら整備された道を歩いていき家の前に到着。ハワードの家は他よりも一際大きく、外観も綺麗で庭や入り口もしっかりと掃除されている


「着いたよ。ここが僕の住む家だ」


「ずいぶん大きいですね、ここに1人で?」


「いや、僕ともう1人で住んでいるんだ」


「もう1人?」


「中に入ったら紹介するよ」


 ハワードがドアノブを握り扉を開け、ルベルもそれに続いて中へと入る。


「おやまぁ。早かったじゃないか」


 と奥のキッチンから、ルベルの半分くらいの身長の老婆がやって来た。髪は全て白髪で、赤い縁の眼鏡をかけ杖を突きながら歩いている。


「ただいま帰りました。村長」


「そうだ、紹介します。彼は......」


「助けて貰ったのかい?」


 と全て分かっているかのように、ハワードの言葉を遮った。


「!......はい、例の盗賊団に襲われた所を」


 老婆はゆっくりとルベルに近付いてくる。


「初めまして、私はポピー。この村の村長をしているの。あなたのお名前は?」


「ルベル・アクイレギアといいます」


「そう、よろしくね」


「村長、何故彼が僕を助けたと?.......」


 その言葉を聞いたポピーは、ニコリと笑って答える。


「フフフ。普段、こんな干涸らびた老婆を世話してくれているあなたが、変な人をここへ連れてくる訳はないもの」


「うっ......」


 ハワードは照れくさそうにして顔を下げた。


「せっかく来てくれたのだから、コーヒーでも飲んでお話でもしましょう。さぁ、こちらへどうぞ」


 ポピーはキッチンへと向かいコーヒー豆を挽き始めた。ルベルとハワードは、キッチンの側にあるダイニングテーブルの椅子に腰掛け雑談を始めた。


「そういえば、さっきあの盗賊が言ってた自警団の人達は放っておいていいんですか? アジトに乗り込んだみたいですけど......」


「あの人達なら大丈夫。みんな元々、傭兵とか冒険者をやってた人達だからそう簡単にやられはしない。」


「無事だといいですね」


「うん......」


「ハワードさんはどうしてこの村に?」


 ハワードは突如深刻な表情になった。キッチンではお湯が沸騰し、火にかけた魔法瓶がカタカタと音を立てている。


「......僕は半年前に訳あって王都から逃げ出して、行く当てもなく彷徨っていたところをこの村の人達が助けてくれて、それがきっかけでここに住んでいるんだ」


「逃げ出したって、一体何があったんですか?」


「僕は王都でそこそこ有名な考古学者だったんだけれど、例の依頼が出される少し前に突然騎士団が僕の研究所に押しかけてきて、『この国の歴史や神話について詳しく教えろ』と言ってきたんだ。何故かと尋ねてみると、『お前はただ命令に従っていればいい。余計なことをすれば捕えて地下牢に幽閉する』と脅された」


 ハワードは更に続けた。


「それから数日間、研究所の外を騎士団に包囲され僕は外へ出られなかった。僕はその状況が怖くて仕方がなくて、しばらくは耐えていたけれどとうとう精神的に限界が来てしまった。そんな中僕の知り合いが脱走の手引きをしてくれて、そのおかげで僕は王都から逃げ出すことが出来たんだ」


「それで研究所を......」


 ハワードは当時の記憶を思い出し、胸を押さえながら苦悶の表情を浮かべていた。同時に、ポピーが熱々のコーヒーが入ったマグカップをテーブルへと持って来たので、コーヒーをひとすすりして気持ちを落ち着かせる。


「その後は、遠くへ逃げることだけを考えてただひたすら歩き続けた。そしてこの村の近くまで来た時、あの盗賊団に遭遇したんだ。何故かあのシャルロットという女は、僕の素性とこの許可証の存在を知っていて、僕が考古学者のハワードだと気付いた途端しつこく追いかけて来た」


「そこで自警団の人達に助けてもらったと?」


「そう。まぁ正確には自警団の人達に加えて、もう1人いるんだけどね」


「もう1人?」


「そう。この村の教会の......」


 ハワードそう言いかけた時、バァン! と入り口の扉が勢いよく開き、村人の男が1人息を切らしながら入ってきた。


「村長、学者先生! 自警団の奴らが......」


「無事でしたか! 良かっ......」


「いや違う! みんなボロボロになって戻ってきたんだ!」


「!?」


「今、教会のシスターと村の皆で治療に当たってる。アンタらも来てくれ!」


 そう言われるがまま、3人は男と共に足早に教会へと向かった。


 村の中央に位置する、プリーストが1人で管理する古びた教会。中は清潔に保たれており、奥には女神の像が置かれておる。そんな教会には多くの村人が集まっていた。自警団の者達が全員ベッドに横たわり治療を受けていた。ほとんどの者が重傷を負っているようだ。


「まさか、こんなことになるだなんて......」


 その光景を見たハワードは、歯を食いしばり拳を強く握りしめた。


「あっ! 村長、ハワード先生! 来て下さったんですね」


 と、教会の奥から1人のプリーストが駆け寄ってきた。修道服に身を包んだ、模範的な若いプリーストだ。


「えぇ。皆さん重傷だと聞いて。治療の進捗は?」


「村の皆さんが手伝ってくれたおかげで、ほとんど終わっています。後遺症が残るような傷を負った方はいらっしゃいません。ですが、治癒魔法だけでは治しきれない傷を負っている方もいまして、しばらくは安静にしている必要があります」


「そうですか......」


 ハワードは信じられないという顔になった。強いと思っていた者達が、満身創痍で戻って来たことに驚愕している。


「ところでハワード先生、そちらの方は?」


 プリーストが不思議そうな顔で、ルベルの方を見て尋ねる。


「彼は魔法士のルベル君。今日、僕が例の盗賊団に襲われている所を助けてくれたんです」


「ルベル・アクイレギアです。よろしくお願いします」


「申し遅れました。私、プリーストのリリーと申します。どうぞよろしく......」


 と挨拶をしたリリーだが、そのまま首をかしげた。森で珍獣でも発見したような顔で、まいまじとルベルのことを見つめている。


「?」


「リリーさん?」


「あ、いえ......何でもありません。」


 リリーは恥ずかしそうにしながら目を逸らした。


「おお! 婆さんと先生じゃねーか。来てくれたのか!」


 とルベル達の側にあるベッドから、他の者よりも体が一回り大きいスキンヘッドの男が話しかけてきた。どうやらこの男だけは軽傷のようで、戦いの後とは思えないほどピンピンしていた。


「あっ団長さん! 怪我の具合は?」


「怪我は全く問題ねぇ。すまねぇな負けちまって」


「いえ、無事でなによりです」


「ん? 先生、隣にいるのは?」


「あぁ、彼は魔法士のルベル君。今日、僕が例の盗賊団に襲われている所を助けてくれたんです」


「おお! あいつらを追っ払ったのか。若ぇのにスゲェじゃねえか。俺の名はダスティン。自警団の団長をやっているモンだ」


「よろしくお願いします。団長さん」


 ルベルは笑顔で会釈した。


「にしても、あなた方がここまでやられるなんて」


 ダスティンはベッドに寝転がり、天井を見上げ深くため息をついた。


「何というか、俺たちも気ィ抜いてたところがあるんだ。あのシャルロットってヤツがいなけりゃ楽勝だろってな。今までもヤツがいないタイミングを見計らってアジトに攻め込んでた。ただ今回はあの女が早々に戻って来やがって、俺たちはヤツにコテンパンにやられちまったのさ」


「あの女、そんなに強いんですか?」


「ああ。目で追えねぇ程動きが速いんだ。手も足も出なかった。情けねぇ......情けねぇよホント」


 ダスティンは片手で両目を覆った。今回の敗北がかなり心にきているようだ。


「自分を責めるのはお止し、ダスティン。あなたは精一杯戦ったのだから」


「けどよ婆さん、俺は団長として......」


「こうして無事に生きていられること自体が幸運なのよ。女神様に感謝を、そして自分の行動1つ1つに誇りを持ちなさい。弱気なリーダーに付いていく者などどこにもいないのだから。そうでしょう?」


「ハハッ、何も言い返せねぇなこりゃ」


 ダスティンは少し震えた声でそう言うと、気付かれないようにそっと涙ぐむ目を手で隠した。


「リリー、治療の方は大丈夫なのかい?」


「ええ。出来ることは全てやりました。後は安静にしていればしっかりと回復するはずです」


「そうかい、いつもありがとうねぇ。疲れたでしょう? もうすぐ日が沈むから皆を家に帰しておやり。もう少ししたら、私達も家に帰りましょうか」


 リリーの呼びかけで、治療を手伝っていた者達は教会を後にしそれぞれの家に帰っていった。後始末を終え、ルベル達も帰宅しようと教会を出た時


「ハワード先生! 今日は......」


 とリリーが寂しそうな顔でハワードだけを呼び止める。


「ごめんなさいリリーさん、今日は疲れているので。また明日来ますから」


 その呼びかけにハワードはドキッとしたが、笑顔で返事をし去って行った。


「......分かりました。ではまた明日!」


 リリーも笑顔でそう返したが、心配そうな顔でハワードの姿が見えなくなるまで見つめていた。


 *


 翌日の早朝

 ルベルは、村長の家の2階にあるハワードの部屋で寝ていた。そんな中部屋でガタガタと物音がし、それによってルベルは目を覚ました。物音の正体はハワードであり、まだ外は暗く日が昇っていないというのに、部屋の外へ出て階段を下り外へ出ようとしていた。不審に思ったルベルはベッドから出て、音を立てぬようにこっそりとハワードの後をつけていくことにした。


 ハワードは家を出ると、そのまま村の入り口の方へ走って行った。ルベルもそれを追いかけていくと、ハワードが村の入り口付近で立ち止まったので、近くにあった倉庫の物陰に身を隠した。そのまま待機していると、聞き覚えのある声がした。


「あら、ずいぶん早起きなのね。駄目じゃないちゃんと寝てなきゃ」


(この声っ!)


「自警団の人達を退けたから、もしかしたら何か仕掛けてくるんじゃないかと思って一晩中警戒してたんだ。窓から松明の明かりが見えた時はたまげたよ。まさか本当に来るなんて......」


「勘が鋭いのね。でも、こうして獲物の方から出てきてくれるのはラッキーだわ」


 シャルロットは右手を前に突き出しピースサインをした。


「これが最後の勧告よ。アンタが持ってる許可証とルベルちゃんをこっちに渡しなさい。おとなしく渡すなら、そのままこの村を去っていくわ。渡さないようならこの村を焼き払うけど、どうする?」


 この時、ハワードに一切の迷いはなかった。こうなると分かっていたかのように、懐から『転移大魔法陣利用許可証』を取り出す。


「本当は渡したくないが、この紙切れで村が救われるなら本望だ」


「ウフフッ、ちゃーんと用意してくれたのね! それじゃあルベルちゃんをこっちに......」


「だがっ!」


 とハワードは突然声を張り上げて叫んだ。その表情には怒りと悔しさが滲み出ていた。


「己の魂に誓って、お前達にルベル君を渡すことは絶対にない! 何があろうと僕は、恩人を敵に売り渡すような下衆には成り下がらないっ!」


 そう言われたシャルロットは、冷たい目でハワードを睨む。


「それは『今すぐこの村を焼き払って下さい』って意味?」


「『この命に代えても僕が皆を守る』って意味だよ」


 ハワードは隠し持っていたナイフを、シャルロットの方へ突きつけながら言った。


「駄目だ!」


 とルベルが倉庫の物陰から飛び出してきた。


「ルベル君!? どうしてここに?」


「キャッ!♥」


「アンタが1人で背負う必要なんかない! 僕たちがいるじゃないですか!」


 ハワードはルベルの方を向き、嬉しそうににっこりと笑った。


「気持ちは嬉しいけど、ごめんね。もういやなんだ、助けられてばかりの人生は」


「ルベルの言う通りだぜ先生。これはアンタ1人の問題じゃあねぇんだからよ」


「!」


 またしても背後から聞き覚えのある声がした。


「団長さん! それにリリーさんまでどうして......」


「リリーちゃんに言われたんだ。先生のこと心配だから、様子を見るため一緒に来てくれってな」


「私達だって気持ちは同じです。一日も早く彼らをこの村から追い出したい。それに、あなたがいなくなって悲しむ人だっているんです。自分が不幸になる代わりに皆を幸せにしようだなんて、聖職者として見過ごすことは出来ません!」


「は~あ」


(ごめんね......お姉さん君が欲しくてたまらないの。酷いことするかもだけど、許してね)


 シャルロットは夜空を見上げながら悲しみに暮れていた。星をつかむかのように手を上に伸ばし、拳を握りしめた。そのまま手を下ろし素早い動きでハワードの目の前まで距離を詰め、鳩尾に拳を1発たたき込む。


「カハッ!」


「ハワードさんっ!」


 ハワードは気絶し地面に倒れてしまった。


「アンタ達、『付けて』」


「へい姉御!」


 合図と共に下っ端達がハワードの体へ何かを付け始めた。


「あれは!」


「ウフフッ。様になってるじゃない」


 ハワードの体には、スティック状の爆弾が胴体を覆い隠すほど付けられていた。


「この男の勇気に免じて猶予をあげる。これが最後のチャンスよ」


「何を言ってやがるてめぇ!」


「日の出までに、ルベルちゃんを私たちのアジトに連れて来なさい。そうすればこの男は解放してあげる。もし来なかったら、コイツを爆死させて今度こそ村を焼き払う。勿論ルベルちゃんは貰っていくけどね。アンタ達、戻るわよ」


 その言葉に従い、数人の下っ端が気絶したハワードを抱えてアジトへと戻って行った。


「待て! ハワードさんを......」


「今日からは、私のいるところが君のお家。待ってるから、早く帰って来てね」


「っ......!」


 そう言い残し、無言のまま数秒間悲しそうな目でルベルを見つめ、素早い動きでその場から去って行った。


「クソッ!」


 ルベルは拳で地面を思い切り叩き、ハワードを助けられなかった自分の無力さを痛感していた。


「気持ちは分かるが、まだその時間じゃあねぇぞ」


 ダスティンはルベルの肩に手を置き声をかける。


「団長さん......」


「行くだろ?」


 ルベルはすぐに立ち上がり、ダスティンと目を合わせた。


「はい。勿論」


 その目にはしっかりと闘志が宿っていた。

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