表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2個目 顔面クリームパン

 

 とりあえず、顔面にクリームパンを投げつけてやった。


 年齢を重ねたことで身体機能は以前よりも衰えてしまったが、握力や腕力は健在のようだ。

 呼吸を整えて、優男(やさお)は床に落ちたクリームパンを拾う。

 今では不審者おじさんへと変身してしまった優男(やさお)も、かつては砲丸投げの選手を目指して青春時代を駆け抜けた男だ。

 全力で投げれば、それなりのスピードは出る。

 彼女の綺麗な顔へ直撃したクリームパンも、なかなかの速度で飛んでいった。


「お嬢ちゃん。大丈夫かい?」

 紳士な声を作り、女性に手を差し伸べる。

「……ほんと、最悪……もうやだ……」

 今にも泣きそうな声を漏らし、彼女は顔についたクリームを拭う。

 それはまるで、涙を拭う仕草にも見えた。


 ああ、可哀想に。きっと痛い思いをしたのだろう。

 誰がそんな酷いことを。

 優男(やさお)は左手に持つ拾ったクリームパンを、全力で握りつぶした。

 そして、もう一度彼女に声をかける。


「怪我は無いかい? 怖かったね」

「……やだ、来ないで」

 怯えながら、彼女は優男(やさお)から距離を取る。

 クリームパンを顔面に投げつけられた女性と、まるで他人事のように心配する優男(やさお)

 二人は五分前に出会ったばかり。

 今日が初対面なのだ。

「うむ。ところで君、名前を教えて貰えるかな?」

「……嫌です」

「そうか。私は猿鬼川(さるきがわ) 優男(やさお)、五十七歳。このメイドカフェのバイトリーダーだ」

「え……」

「若くてすまん」

「思ってません……というか、ここのスタッフさんなんですか?」

「いかにも。それで、君は?」

「アルバイトの面接に来た笹川(ささかわ)です……」

笹川(ささかわ)さん。店長からは話を聞いているよ。ただ、その汚れた格好で面接を受けるのはどうかと思うがね」

「誰のせいですか!? いきなりクリームパンを投げてきたのはあなたでしょ!」

「怪しい動きをする奴を見つけたらクリームパンを投げろ。学校でそう教わったじゃないか」

「教わってません!そんな偏った教育を受けてないです」

「おい。それでは私が非常識な人間みたいじゃないか」

「はい。そう言ってます」

「もう一つ投げつけようか、小娘」

「や、やめてっ」

「ふがはははっ!! ふふふんっ。さて、面接を始めようか」

 高笑いから真面目な声へ。

 優男(やさお)は椅子に腰掛ける。

「い、一緒に働きたくないので、失礼します!」

 笹川(ささかわ)という綺麗な顔をした少女は、逃げ出すように店を出て行ってしまった。

 残されたは優男(やさお)、履歴書に目を向ける。


「お、近所なんだぁ」

 笹川(ささかわ)さん。魅惑の生娘だった--


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ