1個目 早朝おじさんアイドル志望
おはよう。世界。
とりあえず、ちゃぶ台をひっくり返してみた。
床に転がる私物とクリームパン。
部屋は想像以上に汚かった。
誰がこんな酷いことを。
犯人を探すように辺りを見渡す。
すると、鏡の世界に一人の男を見つけた。
そいつは機嫌が悪いのか、こちらを睨みつけている。
もじゃもじゃな髭に囲まれた顔は、いささか年季が入っていて、控えめに言ってもおじさんだ。
人の家に勝手に入っておきながら、いきなり睨みつけてくるとは……人間として終わっている。
「おい」
威圧感のある声が、小さなワンルームに響き渡る。
鏡に映るあいつも、「おい」と口を動かした。
重たい静寂が生まれ、時間がすり減っていく。
「なんだ、私か」
当たり前だ。お前しか居ない。
優男は立ち上がり、床に転がるクリームパンを拾う。
壁と仲良くしているちゃぶ台を定位置に移動させ、その中心にクリームパンを置く。
このパンは、昨日生まれた新入りだ。
納得は出来なかったが満足はしている。
だから、今日朝食として味わう
つもりだった……
優男は笑みを浮かべ、全身全霊で拳を振り下ろす。
パァァァァンッ!!!!
早朝の町に、破裂音が響き渡る。
飛び散るクリームと、潰れたパン。
甘い香りが漂う部屋を歩き、窓を開ける。
住宅街を呑み込む青空は広大で、射し込む光は眩しくて温かい。
鳥のさえずり、川のせせらぎ、寝起きのおじさん。
始まりの朝は美しい。
「今日も頑張るぞっ!」
両手を可愛く握りしめて、風に言葉を乗せてみる。
世界の誰かに届きますように。
需要はないだろう。でも、喜んで受け取ってくれ。
猿鬼川 優男、五十八歳。
今朝はアイドル気分なのです。
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