異世界転生スローライフ~反AIやってたんですけどAIの無い世界に転生してチートも貰ったらなんかどうでもよくなったのでのんびり暮らします~
結論から言うと俺は死んだ。
原因は訓練中の銃の暴発事故だ。
現代日本のどこで銃が使われてるんだって? ああ、そういやそうだ。
そこから説明した方がいいな。
自己紹介がてらその辺を話すぞ。
俺は喜来 安智
職業は自衛官だ。
好きなものはアニメと漫画。まあいわゆる萌え絵だな。
暇さえあれば絵を描き、果ては二次創作漫画も作っているそれなりにディープなオタクだ。
そんな俺の嫌いなものは当然生成AIだ。
自己紹介も終わったところで話に戻る。
原因とかは……まあ知らん。
後で事故報告書とか上がって、マスコミが無いことないこと書くだろうからそれを見とけばいいだろう。
だが起きたことだけ簡潔に書くと、友人に実弾が当たりそうだったからとっさに庇ったんだが……まあ当たり所が悪かったんだろうな。
そして俺は異世界に転生することになった。
今。目の前に居るのは
「ベヨ姉……つまりここは天国か?」
俺の今イチオシのアニメ。『魔女っ子☆悪☆ぷる☆ぎす』のヒロインの一人。ベヨ姉が立っていた。
一言で言えば大人っぽくてエッチなおねぇさんだ。そして頭と行動が残念なタイプだ。
つまるところ大抵の場合の負けヒロイン。
だから俺が描いて応援するんだ……とまでは思わず。
単純に不人気で描いてくれる人間が少ないからしこしことエロ二次創作を……。
いやしこしこってそういう意味じゃねぇから。
そりゃ会心の出来の時はしちまうけど……って何言わせんだ!
とまあとにかく。エッチな服装の大人のおねぇさんが俺の前に立っていた。
やることは一つだ。
「一緒に天国に行きましょうか」
完璧である。
完璧な口説きのセリフである。
そう思っていたのだったが……
「いや。行くの天国じゃなくて異世界じゃから」
じゃから……? ベヨ姉はそんな口調じゃなかった気がするが……。
あの作品でそういう口調なのは……。って違う。ここは現実だ。
現実に俺は死んだわけだ。
ということは……。
「もしかして、神……的なものがサービスで姿を変えてくれてます?」
「そうじゃの。この子が好きなんじゃろ貴様。どうじゃ? 天国見てるか」
いやーないわ。
超ないわ。
いや確かにベヨ姉はエロい。だから言い方を変えれば見た目的な意味で魅力的だ。
よってその姿を寸分たがわず再現してくれるのは喜ばしくあるが。
「……。だよ」
「ん? なんじゃ?」
「口調違いすぎると抜けねぇんだよ!」
……。とまあそのまま小一時間ベヨ姉のすばらしさと不満をぶちまけたところ。
チェンジが認められたのだった。
涙目のベヨ姉を見送ったのち新しいベヨ姉がやってくる。
テイクツーがここから始まった。
ベヨ姉2……もうめんどくさいからベヨ姉で統一するが。そいつが話しかけてくる。
「魔女っ子☆悪☆ぷる☆ぎす 全制覇したから完璧よん。お兄さん。こんな感じで~……どう?」
「俺の解釈とは若干違う。俺の中だとベヨ姉はもっと知的な喋りをするが……まあ及第点だ。話ぐらいは聞いてもいい」
面倒くさいオタクだな。
と思われただろうか。
だがこれだけは譲れないんだよオタクとして。
エロこそがオタクをオタクたらしめ……。
と俺が思っているところでベヨ姉は言い出した。
「今からあなたが行ってもらう異世界にはぁ~なんと~……生成AIがぁ~……ありません!」
「よっしゃ!!!」
ガッツポーズをする。
他のものも無いだろうけどまあ大丈夫だろ。
こういうのって大抵チートスキルとかくれるからそれで何とか出来るだろ多分。
そう思っているとその通りになった。
「そしてあなたにはチートスキルを授けますぅ~。効果はぁ~……」
しばしのタメの後。彼女は言った。
「ナイショ♪ 向こうで確かめてみてねん」
「……こういうのってハズレスキル引いた時の流れのような気がするんだが。本当にチートなんだろうな?」
「そこは安心してお兄さん。本当にすっごいスキルだから。使い方はちょっと癖があるけどね♪」
「という訳でぇ。そろそろ……イイ?」
承知すると異世界に飛ばされる。
そこで俺の新たな生活が始まったのだった。
**
飛ばされたのは田舎の村外れだった。
よくある中世ナーロッパ風の田舎の村。
みんなモサいのに金髪碧眼のめっちゃ可愛い子が居て、なぜか真っ先に主人公を助けてくれるような。
そんな感じのご都合の塊の村だ。
だが、俺はご都合どころか不運に見舞われていた。
「嘘だろ」
足が折れている。
幸いにも片足だけだったが、おかしな方向に曲がっていた。
確かに、転送が下手くそだったのか、ある程度の高度から着地した記憶はあるが、せいぜい10メートルぐらいだ。
空挺部隊だったら足もくじかねぇだろう。
俺は自分が一般隊員であることをこれほど残念がったことはなかった。
患部というか足を戻そうとすると激痛が走る。
このまま歩けもせず助けも呼べないとなれば、冗談じゃなくこの場で生涯を終えることになるだろうが。
それは嫌だ。
何か。何かないか。
そうだチートスキルがある。
こういう時は確かあれだ。
こうだ!
「ステータスオープン!」
思った通りステータスウィンドウらしきものが空中に現れる。
「ステータス」「スキル」「アイテム」の三種類だ。
分かりやすくていい。
ステータス……は今見ても無駄だろう。後でいい。
スキル……は後回しにして一旦アイテムだ。
とアイテム欄を見るとそこには。
「回復ポーションが3つか。一つ50回復か」
使ってみるか。
選択肢を選び、使用してみると……
「足は……少しは治ったがまだだな」
残り二つでは完全に歩けるまでは回復しないだろう。
となると、スキルで何とかするしかねぇか。
純然たる戦闘スキルだったらここで終わりだな。
と思いながらスキル欄を開くとそこにあったのは。
「なになに……チートスキル 『A.I.トレーニングオプトアウト』」
AIが無い世界だって言ってたのにスキルはあんのかよ。騙しやがったな!
ふざけてんのか!
と詰め寄りたかったが、詰め寄れる相手が居ないどころか立ち上がることもままならなかったため。
大人しく説明欄を読むとそこには。
「なになに。効果は選択した対象の記憶の消去。もしくは五感の遮断。なんだAI関係ねぇじゃねぇか……。妨害系の戦闘スキルか。確かに五感の遮断はバトルではそこそこ強力だが……終わったな。これじゃあ何とも」
いや待て。諦めるな。
多分何か……何かある。
考えるんだ。
五感の遮断。つまり……
「痛覚も狙って抑えられるんじゃねぇか?」
一か八かだ。
そう思って対象を自分にし、試してみると……
「……痛みはねぇな……なるほど。傷は治ってねぇが動けはするって訳か」
これなら今見えている村までは何とかなるだろう。
残りのポーションを使い切り、一か八か村に向かうのであった。
***
さて、村に向かった俺はどうなったかというと。
第一村人に事情を説明したところ無事に保護され。
今は教会で厚い歓待を受けていた。
ちなみに足はその教会の神父に治してもらった。
その際に聞いたがこの村で回復魔法が使えるのは彼だけなのだそうだ。
だからだろうか。俺がチートスキルのことを話すと、神父は言った。
「マレビト様。あなた様には世界を救うというとても大事な使命があることは存じております」
そんな話は聞いてねぇな。と思いながらも俺は話を聞く。
「ですが、どうか、どうか……願いをお聞き届け願いたい。村人たちを救ってくれませんか?」
話を聞くとこういうことだった。
自分が使えるのはごく初等の回復魔法だけであり、状態異常。いわゆる毒やら麻痺などは治せないんだそうだ。
なので、苦しみ、時には死んでいくのを見ることしかできなかったのだというのだが。
「その能力があれば、彼らの痛みを和らげることができます。どうか……」
いわゆる終末医療とか。そういう感じの事をやればいいのかね。
ふとそんなことが浮かんだが。
俺は言った。
「いいぜ。まあ自衛官ってのは人を助けてこそだしな」
趣味と実益を兼ねた職業で、女にモテそう……。と思ったから入っただけだった。
なお最後だけは見事に当てが外れた。
しかも、同期から陸じゃなくて海だったら多分モテてた。
って聞いた時はかなり凹んだ。
……とまあそんなわけで。
終末医療的な。
神父と共にもう助からない患者の痛みを和らげる……という行動を俺は始めたのだった。
「ステータスオープン。スキル、AIトレーニングオプトアウト使用! 痛覚を消去だ」
「体が楽に……治った。奇跡じゃ!」
「あー治ってはねぇからな。痛くなくなっただけだからな。だから安静にするのは続けとけよ」
「そういう訳です。彼は痛みを取ってくれるチートスキルをお持ちのマレビトなのです」
「マレビト様……マレビト様……本当に本当にありがとうございました」
さて、俺が、こんな感じで村人の痛みを和らげていると。
不思議なことが起こった。
助かる人数が目に見えて増えたのだ。
いや。俺が消してるのは痛みだけで、そのものの原因を取り除いてる訳じゃないんだが。
それでも不思議なことに、助かる人間は増える。
そんなこんなで俺が村人たちにスキルを使っているうちに、噂が広まったのだろう。
村までやってくる人間が増え始めた。
最初は行商人。世間話がてら、ちょっと入用なものを買おうと思ったら「そんな高価なものは王都まで行かないと手に入らない」なんて言いやがった。ムカついたのでそのまま追い返してやった。
次に隣村の医者。そして隣村の医者に匙を投げられた患者。そして彼らが捌けた頃にさらに隣村の医者……。
まあそんな感じで教会に連日列ができていたのだった。
さて、そういう生活にも慣れてきたころ。
俺は神父に聞いた。
自分の生活に必要なもの。欠かせないもの。
紙とペンの在処を。
異世界じゃなくても描いていた俺にとって。他人の供給が一切無い世界では死活問題だった。
というかマジで死ぬ。
死んじまう。
そんな俺の内心をよそに神父は答えた。
「そのような高価なものはここにはありません」
紙もペンも無いという。
「王都まで向かえばあるいは」
つまり行商人の言っていたことは本当だったのだ。
ぼったくるつもりかと思って追い返したのは悪かったな……。
といまさらながら思っていたところ。
その商人がやって来たのだった。
**
「こちらが紙とペンです」
ペン一本と紙一枚。
いくらだと聞くとこう答えた。
「お代は1000デリオン金貨となります」
そう言った商人に無言で商品を突き返す。
デリオンの価値なんぞ分からんが、この村で見かけるのはせいぜい銀貨までだ。
紙とペンだけで大層な値段なのは分かる。
……しくじったな。確かにただの紙とペンを手に入れるだけでこれなら。絵を作るAIなんぞあるわけもないが。
それはそれで自分が苦労する羽目になるのはムカつくのであった。
そんな俺に商人は言った。
「ですが、私の依頼を聞いてくれたら、タダで差し上げましょう」
「言ってみろ」
「はい。王都にて貴方に会いたいという方々がいらっしゃいまして。連れて来たのでお会いになっていただいても?」
普段なら無視するが、紙とペンがかかっている。つまり俺の萌え絵。俺の生きがい。つまり俺の人生がかかっている。
ならば当然。断れるわけもないのであった。
***
さて会いに来た人間というのは。
こういう場合。
世界は急に狭くなる。
相手の顔を見た俺は言った。
「お前! 助からなかったのか?」
自分が身を挺して守ったはずの友がそこに居た。
彼は言う。
「いやーごめんね。あの後の彼。混乱してなのか乱射し始めちゃってさ。んで君を庇うために覆いかぶさったら……」
この通り。
友はそう言ってウインクする。
「まあでも。こっちの世界も悪くないよ」
また会えたわけだしさ。
俺はそれを聞いて複雑な気分になった。
つまり、俺は見事な無駄死にだったという事実をまざまざと突きつけられた訳だ。
そう思って落ち込む俺に友は言った。
「ところで、絵はまだ描いてるの?」
「いいや。紙とペンが高くてな」
そう言った俺に対し、友は。
「はい。そう思って紙とペン。持ってきたから」
使って。
そう言ってどさりと音を立てて袋を放った。
どさりである。
大量に紙が入った袋である。
つまりそれが意味するのは。
「……お前もチートスキル持ちか」
「そういうこと~」
だからお金とかは気にしないで。
続けて彼は言った。
「会ってしたかったお願いってのはね。一緒に旅することなんだけど」
まあすぐに決めろってのは酷だから三日あげるよ。
三日後に王都への船が出るから。
それまでに答えを聞かせてくれ。
そう言って、それまで村長の家に泊っているからというと。
彼は出ていくのであった。
***
俺は世話になっている神父の家に返って部屋にこもる。久々に絵を描くためだ。
肉感的でエロい大人の女。大人っぽいが残念なところもある。そこが魅力な女。
俺の得意分野だ。
向こうではデジタルが無い頃から物理的なペンで描いていた。
だから久しぶりのアナログでもすぐに慣れ、一枚。また一枚と女が形作られていく。
その絵を描きながら思い出していた。
俺がここに来た時の事を。
事件はあの日の朝から始まったのだった。
「は? 要らない? どういうことだよ」
頼まれていたポスターに使う絵を持っていくと、担当の自衛官は受け取りを拒否したのだ。
そして奴はこう言った。
「あー今年は使わないって決まったから」
「けど絵がねぇと映えねぇってお前らから頼んで来たんだろ? 代わりでも見つかったのか?」
この時はまだそこまでショックを受けていなかった。むしろ沸き上がったのは期待と興奮だ。
俺以上の絵師が自衛隊に居たとは。
是非ともお近づきになりたいもんだ。
そう思った俺に無情な事実が告げられる。
「いや。俺が作ったの。生成AIで」
だから要らねぇんだわお前の。
そして無情な追い打ちはさらに続く。
「てか前々から思ってたんだけどさ。お前の絵。キモイよ」
女がエロい。まあそれはいいんだよ絵だから。けど公式の場に出すにはちょっとなぁ。って絵ばっか描くじゃん。
「あと服装なんてマジ酷いじゃん。どこで売ってるのその服。みてーなのばっかだし」
あと俺ロリ貧乳派だし、お前天敵なの。だからあんなキモイ絵使うのスゲー嫌だったんだわ。
そんな感じの事を言われたところまでは覚えているが、気が付くと。
俺は絵を握り締めて部屋に戻っていた。
絵はぐちゃぐちゃになっている。
そして当然俺の顔も同じありさまだった。
そこに友人がやって来て事情を聞き、慰めのように言ったのだった。
「ごめんな。俺は反対したんだけどな。……だってお前の絵。すごく好きだから」
けど多数決で押し負けた。すまん。
そう言った友人に誘われ、気分を変えようと自主的に射撃訓練を……と思ったのだったが。
その結果は言うまでもないだろう。
ぽたり。
雫が紙の上に落ちる。
雨漏りでもない雫は、己の目からあふれた雫は。
インクをにじませたのだった。
「……なんで俺らがこんな目に遭うんだよ」
俺なんかしたか?
何か悪い事したか?
何もしてねぇだろうが……
なのになんで……
AIなんて無けりゃ俺は。
AIが生まれなきゃ俺は。
ずっとずっと楽しく絵を描いてられたのに。
ペン先がきしんで折れる。
そのまま昔の記憶に押しつぶされそうになる。
だめだ。このままでは。
「ステータスオープン」
俺はスキル選択し、もっともやってはいけないことをした。
「俺の記憶を消去しろ」
対象範囲を指定しない記憶消去である。
このまま術が発動してしまえば終わりだったのだが。
……。
理由は分からないが不発に終わった。
もう一度かけるのも馬鹿らしい。
そのまま粗末なベッドに入り朝を迎えるのであった。
***
そんないつもと大して変わらぬ日々を繰り返し、三日が経過した。
友は約束通りやってくる。
彼は言った。
「さて、答えを聞かせてもらおう」
そう言って見つめる彼に俺は言った。
「お前の話」
不安そうに見つめる神父と患者たち。
彼らの前で俺は言ったのだった。
「断る事にした」
そう言った俺に対し友は言う。
「一応。理由とか聞いてもいい?」
「まあ簡単な話だな。AIとかそうじゃないとか。どうでもよくなった」
だからのんびりしてみるのもいいと思ってな。
手描きする紙ならだいぶあるしな。
「そっか」
「そうだ。どこに行く気か知らんが、気をつけて行けよ」
そう言って友を送り出そうとする。
すると彼は言った。
照れて小声だったので聞き取りにくかったが。
「お前の絵って今ある?」
ちょうど昨日書き上げたのが一枚懐に入っている。
四つに折りたたんだそれを渡すと俺は言った。
「大事に使えよ」
俺はそのまま奴を見送り。村の守護者に収まったのであった。
医者も見放した死にかけの病人の痛みを消してくれる聖人。そして……。
美しい女性の絵を描く聖人として。
俺は末永く村を守り、勇者は時々、辺鄙な田舎のその村に現れた。
という伝説が残ったのだった。
話はこれでおしまいだ。
じゃあな。
お前の世界も大変だろうが。
今居る場所が死ぬほど気にくわねぇなら逃げても許されると俺は思うぜ。
新しい場所でも人間ってのは案外やれるもんだからな。
お前らにも見つかるといいな。
のんびりできるスローライフ先がな。
完
思いついたネタで一発書きしてみた。
まだ直せそうなとこあるけど勢いが大事だと思うのでこのまま上げてしまいます。こんなもんですまん!