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「んじゃ、サビだな。歌い出しに大袈裟なくらい息を吸って」
「え?え?」
「んだよ、レッスンだよ」
氷翠はさも当たり前に私に指導してくれようとするんだけど、私は展開が急すぎて戸惑ってしまう。
「敵に塩を送るの?」
「敵?お前が?」
「うぅ、敵と認識すらされてなかった……」
こんな悲しいこともない。
必死に付いて行こうとして、もがいて同じ土俵に立ってると、そのつもりになっていたのは私だけで、他のみんなは私なんて眼中に無いどころか、「あ、居たの……」みたいなレベルだったとは。
かなりくるなと、落ち込んでいると氷翠は分からないと言った顔をする。
「お前が何を思ったかは知らんが、友達を助けたいと思うのは変か?」
照れくさそうにそう言われてハッとする。
大きな勘違いをしていたのは私だ。