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「それで、貴女は?」
「あ、私は━━━━━」
紅音が自己紹介を求めてきた。
昨日の事がよぎり、言葉に詰まる。
私はこんなにもコミュ障じゃ無かったのに。
「知ってる。朝日優希の妹でしょ?顔がそっくり」
「朝日優希ってどっかで聞いたことあるわね」
キレトカは私が何か言う前に、私の顔をじっと見て言い当てる。
『姉』の事を知ってる人は居た。
なんなら日本では多い部類だと思う。
それでも『朝日夢』と『朝日優希』を結びつける人は居なかった。
華やかでそれこそ太陽の様な人だった。
嫌な事に気付いちゃったな。
私は太陽に姉を重ねたのか。
「……そりゃあるでしょ、アイドル好きなら一度は聞く名前だし」
「うーん、誰だったかしら」
紅音は聞き覚えが有るそうだったけど、ピンと来ていないよう。
思い出す仕草は腕を組み首を傾げている。
ウーンと唸っている紅音に白雨が呆れながら呟いた。
紅音はその呟きを見事にスルーして今だ唸っていた。
相当なヒントなのに。
「お前は本当に自分の事しか考えてねーのな。国内のアーティストとしてはこれ以上ない知名度だったし」
「オリコンは常に上位。……凄い人だった」
「え、ねぇ。ちょっと待ってよ。さっきから過去形なのは……」
キレトカと白雨の会話に割って入る紅音。
慌てた様な振る舞いに焦りの表情を私に向ける。
「姉は死んでいます」
「……そうだったのね。無神経でごめんなさい」
「いえ、いいです。その名前に振り回されるのは仕方ないことなので」
「そ、そう。引き止めて悪かったわ」
「いえ」
ちょっと、居ずらいな。そう思って私は背を向け歩き出す。
すぐそこに食堂はあった。
夢の姿が見えなくなって、紅音達は真剣な顔付きだった。
「ふーん、妹の方もアイドル目指すんだなー」
「ね、意外」
「トップアイドルの妹、ね。あの子も凄いのかしら」
「さーな。でもプロデューサーは付いてるって噂」
「コネじゃないの?」
「だとしてもよ。負けられないわッ!」