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「まあ、まあ。もも寮長、コイツは事務所にも顔出さなきゃだし、ね?」
「むぅ、事情があるのは分かったが、それでも申請なりなんなりしてもらわないと困るからな」
翡翠が宥めるようにちっちゃい王子様こと、もも寮長に事情を話くてくれる。
言葉使いや、態度から親しい仲なのかもしれなかった。
先輩後輩の間柄とは違う親しみを感じることが出来た。
「あ、あの。すみません。えっと、何もかもが突然で……」
本当にそうだ。
準備にしろ、生活にしろ、学園にしろ全てが急すぎる。
一瞬たりとも落ち着いた記憶がなかった。
理不尽だ、そう思うも角を立てるのも今後3年間のやりやすさとかを考えればムカムカしてくる気持ちなんて飲み込んで後でどっかで爆発させた方がマシに思えた。
「……はぁ、全く悪びれてない顔だぞー。アイドルなら顔くらい作れるようになれ」
もも寮長はそう言って頬を軽くペチペチ叩いて歩き出してしまった。
翡翠と目が合うと、「大変だったな!!」と笑ってくれる。
朝とまるで別人だけど、断然こっちの方がいい。
そう言うと照れたように走り出してしまった。
何かをもも寮長に言ったらしく、もも寮長は呆れた顔を私に向ける。
一体何を言ったんだ。
私に不利益になることだけは嘘でも言うなよ。
「何してる!世界一のアイドルになるらしいが、その前にやることは山ほどあるぞ!」
「なっー!!おまっ!翡翠!!」
もも寮長はにへらっとわるーい顔をして大きな声でわざわざ裏庭に響く声でそう言ったのだった。
慌てて翡翠を追いかける。
笑いながら逃げる翡翠の足は、足早っ!
追いつけないことを悟り、走るのを辞める。
「……まあ、そういう事でよろしくな未来のスター?」
「辞めてくださいよ……」