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昨今のテレビは視聴者離れが顕著だ。
俺はこの業界で少なくない年月を過ごしてきたが、朽ちてゆく船に乗ってる気分だ。
今回のオーディションも深夜の30分番組だ。
製作者もスポンサーもそこまで期待はしていない。
オーディションを受ける子の資料を見ても、当たり前だが知らない子ばかりだ。
若い子たちと言えど爪痕くらいは残して欲しいところだが。
始まってみれば頭を抱える。
ダメダメだ。基礎もない。
まあ、1人通用しそうな子はいるな。朝日奈太陽。
朝日奈?
この子で決めていいたろう。他のディレクターらと目配せしても同じような感じだった。
最後に歌のレベルを見て終わり。
1人とんでもないことを言い始めたがね。
「歌いません。けれど、太陽の後ろでバックダンスします」
耳を疑ったね。何のオーディションだと思ってんだと。
この子は今後うちでは扱わないかな。そう思った。
太陽が歌い初めて本当にバックダンスを始めた。
けれど、多分、他のみんなも同じだったろう。
正面向いてる太陽以外は彼女の吸引力を目の当たりにした。
急いで資料をみる。
朝日夢。
朝日?
あの、朝日か?
なら納得いくか?
それにしても、受けるオーディションを間違えている。
そう審査員一同思ったのだった。