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「口の開いていない子が居ましたね」
時計先生が鋭く指摘する。
間違いなく自分の事だ。
クラス中がキョロキョロし出す。何も犯罪を犯した訳じゃないのに犯人探しみたいにしなくとも、と思わなくもない。
しれっとしてたらやり過ごせないかなと思ったけれど、人畜無害そうな顔をしておいてそうはならなかった。
「貴女ですよ〜、朝日夢さん」
「えっと、すいません」
指摘され咄嗟に謝罪をしたけれど、それでは許してくれなかった。
「挨拶は大事です。こと、一般人よりも重要です。アイドルは1人で出来るものではありません。ステージで例えても指で数え切れない数の人がたった1人のアイドルを輝かせる為に動きます」
言わんとする事は分かる。
プロデューサーを初めとして、音響さん、照明さん等本当に色んな人が支えてステージを作る。
その人が愛想悪く、誠意もない人ならばやる気は出ないし、綻びが生まれ、積もり、ステージの魅力は薄れていくかもしれない。
もし、ミスが発生した時のフォローが無くなるかもしれない。
恐ろしい事だ。
もちろん相手はプロだ。
そんな事でクオリティは下げないだろう。彼らの信用に関わるから。
それでも、「次」は無いだろう。
「すいません」
それらを考えた上で私は誤る言葉しか出てこない。
「叱ってるんじゃないです。挨拶をし忘れてしまった。タイミングが合わなくて言いそびれた。そんな事は起きる事です。その時謝りますか?違うでしょう?」
「そうですね……」
ここまで言われたら言う事なんてわかってる。
けど、今このクラスの視線が全て私に刺さって動けない。
こんな小さなプレッシャー出動けなくなってたらこの先は無理だ。
心臓が焦らせる。
汗が止まらない。
視界が真っ白になる。
「はいっ!先生!!」
その時、太陽が手を挙げ、ガタッと立ち上がって私の元に来る。
「どうしました?」
先生は成り行きを見る様に太陽に微笑む。
「事務所が一緒なので、ここで私と一緒に自己紹介を!」
太陽が手を握って立ち上がらせてくる。
嘘だ。こんな事。
でも、緊張は溶けた。
後は、私が泣け無しの勇気を振りかざす時。