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無遠慮に楽しみ尽くしてやればいい
僕はこうして前世までの記憶をすべて思い返すことができるようになった。
僕は自分が『なにもの』であるかを悟っている。
しかし、その『なにもの』で居られることはここを出れば一旦途絶える。
僕は自分が『なにもの』であるかまったく消去する。
すべての記憶に幕がかけられ僕は無力な所からまた漂うことを始めなければならない。
それまでは本来の『ぼく』で在られる。
それがつまり人間になる前の僕、胎児なんだ。
人間になる前のこの時を僕は結構気に入っている。
何故なら、僕は母のお腹にいて僕をとりまく様々な出来事や感情をあたかも自分の眼で宙空から見ているかのように感じ取ることができるからである。
それはまたあたかも長い十月十日の映画を特等席から見ているようなものだった。
そう判ずれば、僕はこの鑑賞期間をさっきよりもっと人間らしく楽しまなければいけないと思う。
いけないなんて愚かな制約も愚の骨頂か。
ただ無遠慮に楽しみ尽くしてやればいい。