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輪廻が好転してきた
下賜された命の積み重ねのうちに、僕は少しずつ何かを得ている。
それが悪くない方に動いていることは確かだ。
娑婆での暮らしに謹んで邪な行いを減らすよう努めて、
なくせやしないけど縄張り意識をできるだけ緩めて、
そうしたことを思い巡らさないことがほんの少しだけできるようになったと自覚するようになってからというもの、
僕の輪廻が好転してきた気がする。
ミヤマクワガタのあと、すなわち二つ前の命はこの星から遥か遠く離れた世界の、
風みたいな生命を貰った。
実体のない命だったけど、どんな苦しみもなかった。
けれどどんな快楽もなかった。
しかし百一年大過なく吹いて流れるに任せた。
あれはこの星の人間が死ぬような苦行の末到達する解脱というに似た境地だった。
そんなことをせずともここでは易々と手に入るのだなと、不思議な幸福を百一年間味わった。
区切りはどうであったかすら覚えていない。
何の痛みも苦しみもなかったから。