僕は定められたとおり漂ってきた
よく考えてみれば僕は自由なんかじゃない。
ここに来た以上、自由なんかじゃない。
生み落とされた時点で不自由な定めを背負っている。
例えばだ、ここを出たら自由に何処へも行けない。
飛べないし、泳げないし、潜れないし、根ざせないし、速く駆けられないし、逃げられない。
制限された中で、同じ制限された泡を食い合いながら、
不条理な営みを強いられる。
これはどうあっても自由じゃないし避けられない。
しかしだ、強ちそれも悪くはない。
何故だか不条理の営みのうちに段々と『痛み』が和らいでいる気がするのだ。
遠い遠い痛みは僕を傷つけること甚だしかったが、輪廻のたびにその痛みが弱まっている。
それはバッタであっても、きつねであっても、他の星の生物であっても、
根本的な痛みは弱まっている。
この星のいわゆる高等生物と彼らが云う生き物だと痛みはとても大きいが、
バクテリアだと高等生物に比べそれほど痛みを感じない。
比較をしていることが僕を慰めている。
比較がない頃には痛みにただ耐えるだけだった。
でも痛みが辛いほど、そのあとの痛みが和らぐのは何故か。
何故とも知らぬが、僕は定められたとおり漂ってきた。