依頼人その1・三途さん
最初の依頼人は、若い男だった。かなり線が細い。食事は一日一食ってとこか?これはぼくの目測。彼とぼくは今、向かい合って応接セットのソファに座っている。
彼女は三階から、ビデオカメラっぽいものでぼくらの会話と状況を確認。依頼人には見えないよーにしてあるよ、もちろん。
もしぼくが依頼人に化けた犯罪者に無言で襲われてぼくが声を出せなくても、ビデオカメラがあればもう安心!それを確認した彼女が警官を呼んでくれるよ!なんて便利なんだ!……はぁ。
彼女はまた、ぼくの耳につけられている極小の通信装置を通してぼくに指示を出せるようになっている。なにこれ、これは凄く楽しい。
若い男は、名前を○○○○といった。え?個人情報保護ってやつだよ。ここでは便宜上……なんて呼ぼう?
まぁ、依頼内容からぼくが勝手に考える事にしよう。
どうみても子供であるぼくを見て不安気な顔をしている。しかし、本物の警官が護衛していることを思い出し、ぼくを名探偵だと認めようと思ったのかな?勇気を出せ俺、という表情になり、
「実は、死後の世界がどうなっているか、調べて貰いたいのです」
なんともボソボソとした喋り方である。いや、そんなことより、
……ぼくの変人センサーが反応したみたいだね?こいつは変じ……
いやいや待て待て。つい最近、何でも『有り得る』んだと思うようにしようと思ったばっかりじゃないか。いいじゃないか、死後の世界。あるんじゃない?そうそう。あるかもしれないじゃん。
<調べて欲しいってどーゆー事ですか?>
うお。いきなり耳に音が入ってきて驚いたよ。なんか声が楽しそうじゃない?君はこーゆう依頼望んでたの?これぼくの推理小説の知識とかいらないよね?なんで君『幻の女』の冒頭暗記してるレベルの人物募集したのさ?ぼくが今まで読んできた推理小説にこんな奴いないよ?それにこれ推理力とか必要ない……こともないか。
まぁ、ぼくは彼女の言葉を伝えればいいのだ。
調べて欲しいって、どういう事ですか?
「私はですね、昔から死んだら人はどこへ行くのかと考え続けてきたんですよ。だって、死んでから知ったんじゃ遅いじゃないですか。死んだときの準備をしておきたいんですよ、今から」
……なんでそんな考えをするように?
これはぼくの自発的な質問。この人の言ってるぐらいのこと、誰でも考えるだろうけど、わざわざ探偵に依頼する辺り一般的とは言えない。
○○は目を輝かせると、
「私はですね、なんどもあっちの世界を見てるんですよ。寝てるときとか。そしてそれはいつも、自分が三途の川にいる状態なんです。川の向こうは何やら楽しそうな感じがするんですが、遠くてよく見えないんですよ。私は川のこっち側にいるだけ。
でも、私みたいな凡人があっち側を、少なくとも、見る事ができるのなら、世界一の頭脳を持つあなたなら、きっとあっち側を詳しく見ることができると思うのですよ」
なんだって?突飛な発想だなぁ。まぁとにかく、この人の名前は三途さんで決定だな。ネーミングセンスなんて無いけどいいんだ。ぼくは小学校の頃クラスで飼ってたザリガニにあんな名前をつけようとしてクラスの皆から……いやもう思い出したくない。
<三途の川に行けるのは、寝てるときだけ?>
もうぼくの言葉省略。同じこと言ってるだけだし。
彼は少し考えると、
「いや、自分が『もう死ぬかもしれない』と思ったとき、行ったことはありますね。昔、川で溺れたときとか。あの時の光景、今のより随分はっきりしていた。最近は寝ていても三途の川に行く回数が減ってきて、不安になっていたんですがね」
軽いトランス状態になる、ってことか?にしても不安になるって……
「それでですね、思い切って線路に入ってみたんですよ。電車が来そうもないときを見計らって。まぁ、ダメだったんですけどね。自分で『大丈夫だ』と思ってたら何の意味もないみたいですね」
ふーん。
ってお前か、線路侵入したの。
この人は本当に向こうの世界が知りたいんだなぁ。なんでそこまで?よく分からん。
<あなたの状態はわかりました。具体的にどういう風に報告すれば良いですか?>
「それはお任せします。私が納得できるものなら。それより……」
三途さんはちょっと不安そうにする。どーしたの?
「お支払いの方ですが……掲示板には無料と書いてあったんですが……そうなんですか?」
え?掲示板?ネットの?それともいわゆる掲示板?
どっちでもぼくにゃあ関係ないか。
<ええ、もちろん無料ですよ>
「そうですか」
三途さんはほっと息をつき、
「最近不景気でして、会社をクビになりましてねぇ。お金は少ないのですよ」
そう、だったんですか。
きっとこの人は、『世界一』というところより『無料』に目を引かれたんだろうな。
それではよろしく、と言い残して三途さんは事務所を出て行った。期限は無制限、ただし三途さんが死ぬ前まで。三途さんの携帯のメールアドレスも教えて貰い、この場は一旦終わりかな。
そう思っていると、三階から井坂探偵が降りてきた。彼女は微妙な中にも嬉しさを含ませた表情をしている。なんじゃそりゃ?どっちにしろ、こいつの表情は凄く読みやすい。
「先輩」
どうした。
「あの人、おかしいですねぇ」
お前が言うか。
昨日と一昨日に書いたものに誤字とか一杯ありました。訂正訂正。確認したつもりでも決行あるものですね五時って。
書き溜めはずっと0のままですが、冬が明けたらどうなる事やら。
遅くなりましたが、
評価してくれた方、お気に入りに入れてくれた方、どうもありがとうございますm(__)m
こんな駄文でも少しは読んでる人がいたと知って嬉しくなりました。
ではまた。