彼女の正体(?)
女子のちょっとした歓声。男子からは特になし。というか落ち込んじゃってる。本を読んでいなかった自分の不甲斐なさにかな?かわいそうに。それにしても困ったなぁ、目立ってますよぼく?本当は別に困っちゃいないけど。
それから間もなくチャイムが鳴り、彼女はぼくの名前を確認してから帰っていった。颯爽とスカートを翻してダッシュで駆けていく彼女は絵になったね。彼女は昼休みに又来るそうな。というか君、チャイム鳴ってから戻ったんじゃ遅いよね?それに廊下は走っちゃいけませんよ。
ぼくらのクラスにまだ先生は来ない。ぼくらのクラスの担任は時間にルーズで、チャイムが鳴って3分ぐらい経ってから教室に入ってくるのだ。ん、そういえばもうじき還暦って言ってたからなぁ。ルーズなんじゃなくて、耳が遠くてチャイムが聞こえないのかな?
どーでもいいけど君ら(=男子)、ぼくにそんな目向けるなよ。羨ましいか?はっはっは。
「お前……ずるいぞ一人だけ」
友人の一人がぼくに意見をしてきた。ずるいと言われても……知ってたもんは仕様が無い。ぼくのせいじゃあないさ。いや本当は知ってた嬉しさ一杯で答えたけどね?
そんなことより君好きな子いるんじゃなかったっけ?前ぼくに話してたよね?
「一目惚れした」
あぁ君は最低だなぁ。一目惚れって何だ?顔の作り具合が少し違うだけじゃん。平安時代とか行ってみろ、美人の基準は全然違うぞ。皆の共通認識である『美人』と言う概念は時代が変われば移りゆく不安定なもの。君が平安時代に生まれてたら、君の目には彼女はただの人にしか映らないんだ。そもそも外見なんて年とったら変わるんだよ?そんな一過性のものに惑わされて君は悔しくないのか?性格が大事だろ性格が。
……まぁ『性格が良い』だって時代によって微妙に基準違うし、年とれば多少変るし、そもそも『君が彼女を好きになった』という事実は変らないからわざわざ歴史の話なんて持ち出す必要ないんだけどね。
……いやそんなに考え込むなよ、君に『好きになるとはどーゆうこと?』なんて分かるはず無いよ。ぼくも分からん。それにそんなに考え込まれるとなんかぼくが悪いみたいじゃん。
というかぼくも外見に釣られて答えちゃったんだが。人のこと言えないね。あはは。
そんな(ぼくにとっては)楽しい朝の会話をしていると、担任が教室に入ってきた。静かになる教室。ぼくの友人もさっさと席に戻る。銀ぶちメガネがずり落ちそうになってるよ先生。と、先生は急に何かを思い出したように教室から出ていった。騒ぎだす教室。……またあの人、出席簿忘れたな?
午前中の授業は滞りなく終わり、ご飯も食べ終わり、ぼくは教室で待機中。……いつも他の教室とかに行ってる奴らがみんな教室内にいるよ。そんなに気になるか?気になるよなぁ。ぼくが君らの立場だったら凄く気になるよ。
「すみません、井森先輩いますか」
おっと来たね。ドアの前に彼女が立っている。昼休みの着席率に驚いている表情。どうでもいいけど、ぼくはこの名前の影響でハ虫類が好きなんだよ。イモリって可愛いよなぁ。
なんてこと考えてる時じゃなかった。一体全体何の用で推理小説愛好家を募ったのかな?いよいよ謎が明らかになるね皆!
と言いたいところだけど。
はいはい、いるよ、とぼくは言いつつドアの方へ行き、彼女を通り過ぎ、外で話すように促す。彼女の表情が了解したと語っている。残念だったねクラスの男子諸君。君らには聞かせないよ。
バッタンガチャリと変な音を立てつつドアが閉まる。
手伝って欲しいことってのは何だろう?
「まず簡単に自己紹介をしますと、私は元FBIで今は日本警察の裏のTOPで世界一の天才で名探偵です」
……うん?
「頼みというのはその世界一の名探偵である私の助手になってもらいたいという事なのです。推理小説の知識をある程度お持ちの貴方なら、きっと私の役に立つと思うのです」
……うん。
「いいですか?」
いいよ。
「それは良かった、ではまた放課後によろしくです」
わかった。
またまた颯爽と去っていく彼女。格好良いなぁ。
……
……はっ!
すげぇ!何あれ!超変な人じゃん!すごく変じゃん!教室でいきなり推理小説愛好家を大声で募集するようなレベルの変人じゃないじゃん!ナルシストとかいうレベルじゃねーぞ!なんでぼくが引き受けたかって?け、決して外見がいいから何でもいいか~あっはっは、なんて思ったわけじゃない!そうじゃなくて、ぼくは。
すごく変わった人が、大好きなだけだ。
変人ってのは、ぼくの定義では、何考えてるのか理解不能だったり、多大な妄想力があったり、他人を全く気にしなかったりする人。
……彼女は、すごく変な人なんだなぁ。
ぼくは心が躍っていた。自然と顔に笑みが浮かぶ。彼女は妄想癖があるのかな?自分を天才だと思ってるのか。なら、その妄想を崩すのが楽しそう。完全に壊そう、妄想が機能しなくなるまで。理想を叩き潰して、現実の自分を見せよう。君はただの一般人。美人だけどね。天才なんかじゃない。思い知らせてやろう。
その結果どうなるかな?恥ずかしいことを言っていたと気がつき、その後二度とその話題を口にしなくなるか?やれやれ、妄想なら頭の中でやってれば誰も気にしないのに。わざわざ口に出したり文章に起こしたりするから悪化するんだ。それとも妄想にしがみついて特別な自分を保とうとして、さらに変人になるか?でも彼女の場合美人だからなぁ。元々特別だってのに。なんでそんな妄想を?これは何かありそうだ。面白くなってきた。
いや、ちょっと待てよ、彼女の妄想をそのままにしておき、遠目で見守るってのも中々面白いものが……
……ぼくってすごく性格悪いんだな。
色々考えていたときにふと、改めて思いました。
とりあえず2作だけと言いながらも、書けたので投稿してしまおう。
むしろ『ぼく』の方が変態……