三途2・ぼくはあっちに行きかける
催眠術師がやってきた。
速くない?君絶対近所住んでるよね?
「警官の護衛がこいつと一緒で済むからだよそんぐらい分かれ」
いくら世界一だからって年上にそんな言葉遣いを……君まだ小学生ぐらいだろ?
「だったらどーしたんだよ俺はお前より優れた能力持ってんだよ」
正論……じゃないな?能力の問題じゃなくて年上には敬意を払うというのが世間の通例だろう?
「何が『世間の通例』だよ偉そうに言ってんじゃねーよたかが生まれた年が多少違うだけでなんで尊敬しなきゃいけないんだ?」
おっしゃる通り。それにしても口だけは達者だね。句読点とか欲しくないの?
「口ですら達者でない上にそれ以外も達者なところが無いお前よりましだ」
あれ、ぼくなんで小学生相手にこんなことしてんだろ。彼女はいつものこととばかりにデスクに突っ伏したまま。
「すみません、本当は凄く優しい子なんですけど」
ちょっと待て、君それ自体催眠術じゃないの?
「……それは無いと思いますけど、どうでしょうかね?この子に関連することで絶対に真実と言えることはないですから、私が昔催眠術をかけられて、そのこと自体忘れさせられてるって可能性はありますが。でもそんなことをする子じゃないと、私は信じてますよ。催眠術使えるようになる前からこの子のこと知ってますし」
そこまで言い切ると、
「ね?」
と催眠術師の方を向き、確認を取る。
「あ当たり前だお前ら程度にこんな力使う必要すらないんだよ」
ちょっと噛んだね?照れてんの?つーか君は誰に使ってんの、催眠術?
もう口論は疲れたので黙ってたけど。
「それで、電話でも言ったけど、この人を死後の世界に送って欲しいんだけど」
凄く物騒に聞こえるなぁ。
「わかった」
なんだかんだ言って君素直だよね?意外といい奴なのかもしれないなぁ。あれ、こう思ってること自体催眠術?あんまり考えないことにしよう。キリがない。でもまぁ、催眠術かけてるモーションも今までないし、大丈夫かな?それとも脳からでてる電波で催眠術かけるとか言うなよ?
「じゃあ準備するぞ」
「はいはい」
井坂の手によってカーテンは締め切られ、電気も全て消された。催眠術師はおもむろにでっかいローソクとライターを取り出し、火をつける。それを応接セットの机にある灰皿に立てる。なにこれ降霊術?
どっちにしろこんなに手順が必要ってことは、あんまり催眠術を警戒することは無さそう。普段絶対こんな状態にならないものなぁ。
催眠術師は金の鎖のついた懐中時計を取り出す。それをぼくの前に掲げて、
「これをじっと見てろ」
そう言って、時計をゆっくりと揺らしながら、
「あなたは今死後の世界にいる……あなたは今死後の世界にいる……」
とやり始めた。少し声の雰囲気も変わっている。でもさ、いくらなんでも一般的過ぎないか?これ。でもまぁ一応、じっと見といてやるか。ぼくはこーゆうのかかりにくいんだけどなぁ。こういうのは被験者に退屈なパターン運動を見せて、それをきっかけにしてひけんしゃをさいみんじゅつにかけるというしゅほうなん
……
……
……あなたは今死後の世界にいますね。目を、開けてください。
……
……
周りが暗い。
そうか、目を開ければいいんだ。
……ここはどこだろう。大きな川の近くだ。
ああ、ぼくは死んだのか。ぼくは直感的に分かった。ここは賽の河原だろう。なんで死んじゃったんだっけ?覚えてないや。
辺りを見渡すと、積み石をしている子供たちがいた。かわいそうに。
ふと気配を感じて後ろに振り向くと、老いた鬼が二頭、手招きしている。なんだ、奪衣婆に懸衣翁か。今着ている白い着物を探ってみると、六文銭を発見した。良かった。
あれ、懸衣翁は死者の衣にどれだけ水が浸かっているかで、罪の重さを判断するんだったよなぁ。つかあの人は木に衣かけるだけだけど。でもぼくの衣全然濡れてないぞ?本当のシステムはそんなんじゃなくて、この服に単純に罪の重さが加わるだけってことかな?濡れて寒い思いをするよりましか。でも濡れるってことすなわち罪人だから、寒いってことも懲罰?良く分からないなぁ、仕組みが。最近システムの変更があったりしたのかな?
まぁいいか。
二頭の傍に寄ると、奪衣婆がぼくの着物を剥ぎ取り、懸衣翁がそれを木にかけた。
ああ、でもどっちにしろ服は剥ぎ取られるのか。ぼくの罪の重さを量ってるよ。嫌だなぁ。でも仕方が無い。
「お前は罪人だ。橋は渡らせない。自分で泳いで行け」
と、彼らは服を返してくれた。優しいね。でもぼくは水泳は苦手だし、着衣水泳はもっと苦手なのに。
でも、やっぱりぼくは罪人だったのか。まぁ、そうだろうな。いや、納得しちゃいけないけど。特に悪い事した記憶もないのになぁ。
今一番の問題は、ここが山水瀬か、強深瀬かという事。川の深さを目測して見ると、まぁ、浅い方かな?良かった、それほどぼくの罪は重くないんだ。
さて、泳いで行こうか。
あ、足が冷たい。ここの水凄く冷たい。後ろを振り返ると、鬼がじっとこっちを見ている。怖い。あれ、ここが浅瀬ってことは最初から分かってたはず。ああ、もしかしたら最初から罪の重さに見合ったところに送られて、彼ら二頭の鬼は罪を量るポーズをするだけなのかな?なんだ。それで給料貰うなんていい仕事だね。ああ、鬼たちがさっさと行けと手まねでしめしている。いやだなぁ。すすみたくないけど、いかなきゃいけないようなきがす
何かに引っ張られる感じがした。
「大丈夫か?」
目を開けると、心配そうな名探偵と、興味深そうな顔をしている催眠術師がぼくを見下ろしていた。
ここらへんまで一つのもの書いてると別のも書きたくなるんだなぁ。
書かないけど。むしろ書けないけど。