新学年早々、変人発見
電車内にアナウンスが響き、ぼくは本からちょっと目を離した。電車が大幅に遅れるという。というか止まるという。人身事故。まったく止めて欲しいですよ飛び降り自殺は。どれだけの人に迷惑がかかると……
なんて言うと自殺した人の心も考えない阿呆だと思われそうなので黙ってる。というか話し相手がいない。電車の中だし。
まぁ、運よく座れてるし本はあるし、遅れても別に大丈夫かな?人身事故が原因の遅刻は遅刻扱いにはならないそうな。
もちろん、つい最近2年生になったぼくとしては、授業にはできるだけ出ておきたい。難しいし、色々。遅刻はしたくないけど……まぁ、本を読めてラッキーと思うことにしよう!ラッキー、ラッキー!……人が死んでるのにラッキーは不謹慎だろうな。思うだけ思うだけ。
文庫本に目を戻すことにした。ジャンルは推理小説、ぼくが一番好きなジャンル。バンバン人が死ぬなんとも不謹慎なジャンルだけれども、面白ければ良し。現実じゃあないしね。本の中ではまさに名探偵がみんなを集めて謎解きの真っ最中。いいねぇ、この高揚感。名探偵、やってみたいよ。現実世界では警察が一個人を捜査に協力させるのはありえない、というのが残念である。でも実際に協力させてたらそれはそれで、問題になるんだろうなぁ。
とか何とか思ってたら電車は動き出した。ええ?何?自殺じゃない?線路に入っただけ?もう電車動けんの?
勘弁して欲しいねぇ。授業に遅れるという非・日常を体験できると思ったぼくのこの高揚感をどうしてくれるのだ。それに不謹慎な発言を自重したぼくの気持ちは。まぁ正直どうでもいいけど。
まったく何の目的で線路に入るかなぁ。ぼくはそれから、線路に侵入した人物がなぜ線路に侵入したのかに思いを巡らせて楽しんだ。飽きない。あれ、ぼくって変かもしれない。いやいや、ただ一人遊びが得意なだけさ。一人っ子だから。
生徒用昇降口に着く頃には流石に妄想も尽き始める。ん、なんだよ、まだまだ時間あるじゃん。ぼーっとしながら教室へと足を向ける。角を曲がった左がぼくの教室。さて、入りましょうか。
おやおや、教室の前に人影が?ドアの真ん中に突っ立っている。教室を見渡しているようだ。誰かを探しているのかな?
しかしこれは誰だ?こんな横顔はみたこと無いな。といっても髪で隠れて良く見えん。スカートを穿いている所をみると、恐らく女子で、多分一年生。スカートを穿く男性というのはアイルランド以外では余り見ないし、年上には見えんものなぁ。それに髪が肩甲骨のあたりまで伸びていることも、この人物が女性であることの補強材料になっているね。なんて考えなくても見たら女子だと分かるよね普通。
しかし君、そこに居られるとぼくは教室に入れないのだよ?ドアの前には立たないのが礼儀だよ。なんていきなり声かけるのもなんか怪しいのでさり気なく咳払いでも……
「この中に推理小説が好きな方はいますか!手伝って欲しいことがあるのですが!!」
新学年早々、ぼくらの教室に大声が響き渡っていた。
ただの猫好きの暇つぶしですのでどうかご容赦を m(__)m