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柘榴  作者: 汐待 空恭
6/11

柘榴(果実)6


 それからは、相変わらず10分だけの邂逅だが、土日の朝も会うようになった。家族には『運動不足解消のための散歩』と偽って。例の日の翌日は、また来ると言いながら時間も何も約束していなかったので、朝早くにいるだろうかとも思ったが、鳥居をまたいだ瞬間見慣れた薄着の彼が本殿から飛び出てきて、不安も飛んでいった。というか、そん中に住んでたんかい。なんと罰当たりな。

「ほんとに来た!しかも早い!」

忠犬ハチ公が飼い主を認めたときも、こんな感じだったんだろうか。見えないはずの尻尾がちぎれんばかりに振られている気がして、ほぼほぼ反射的に頭をなでてしまった。彼は「きゃー!」とはしゃいだ声を上げた。近所迷惑だからヤメロ。朝焼けの中で会う彼は、暗闇の深まっていく不気味さが消えて、いつも以上に“きれいな人”に見えた。整った顔もよく見える。街灯なんかの人工的な光よりも、暖かな陽光が似合う人だなと思った。




 彼に確かに救われて、それでも時折、彼と話している中ですら抱きなれた感覚を覚える。たわいない話をしているとき。時計で時刻を認めたとき。低い振動音が響いたとき。

 ――また、この感覚。

「ねえ」

その声で、現実に引き戻される。知らぬ間に俯いていた首をもたげ、声のした方をゆるりと見やる。

「助けてあげようか?」

何のひずみも淀みもない、けれど闇を内包した真っ黒の双眼に、見初められる。飲み込まれそうに、否、飲み込まれたくなって、けれど寸で思いとどまって、

「…いや」

マフラーを、外す。

「これ以上を望んだら罰が当たる」

そう言いながら、惜しげもなくさらされて寒そうな首元に、くたびれたそれをふわりと巻いた。きょとりとした後に唇をむにゅむにゅ動かした彼は、それ以来ずっと、そのマフラーを巻いていた。


 忘れていたんだ。寒さが和らいで、息がしやすくなって。この邂逅の始まりを。その時、考えたことを。

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