柘榴(果実)4
――動けなかった。
行動できなかった。自分から動けるようになりたいのに。こんな自分が嫌なのに。何で動けないんだろう。動きたいって。行動したいって。いつも。いつもいつもいつもいつもいつも。思っている、のに。
現状を『嫌だ』とつぶやきながら、一方で心地よく思っているからさ。安定した今を手放したくない。『こんな自分…』なんて悩んでいる自分すら大好きなんだよ。
そうかな。そうかもな。否定できない自分がいる。
いい方法がある。目標さ、ゴールさ。向かう先が見つかれば、今何をすべきかが見えてくる。もっとも、そこへと向かうその過程を苦しいものだと思い込んではいけない。ワクワクを楽しみ、成長を楽しみ、そうして満たされた過程を送ればいい。
成長の実感なんてない。何をしようと成長していない。いつまでたってもダメなままで。
自分を変えたいのなら、変化を習慣づけるのが必要なんだ。それこそ、小さな変化でもいいから、日常でいつもと違うことをしてみる。そうすれば、安定から脱するきっかけになる。“楽”というのは惰性の中で、現状の中で一切の変化なく過ごすこと。だらだらと変わらずにいるのと、挑戦してゴールを目指すのと、どっちがいい?
それができれば苦労しない。辛いんだよ。しんどいんだよ。成長しない中で、ゴールを目指して挑戦して、なんになる。何にもならないだろ。辛い、つらいのに、つらいのに。
自分の大きな問題と向き合うのは辛く苦しいものなんだよ。辛くも苦しくもない課題なんて存在しない。それこそ、辛く苦しい気持ちを抱え込んでいくのが大事なんだよ。すぐに答えが出ないことだらけで、答えが出ない不安定で辛く苦しい状態を抱え込んでいくのが生活で社会で人生なんだ。そういうものだと思って。
うるさい。
うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい抱え込む練習うるさいつらい逃げたい悩んでる自分大好きうるさいうるさいうるさい成長を楽しむうるさいうるさいつらいしんどい逃げたいワクワクを楽しめうるさい変化を見いだせうるさい逃げたい逃げるなうるさい向き合えうるさい向き合えうるさい向き合えうるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい、うるさい!
『そんな綺麗事が何よりも鬱陶しい!!』
思考から浮上すれば、現実が戻ってくる。立ち慣れた駅のホーム。黄色い線の内側。貨物列車は随分前に通過して、次に来るのは停車予定の車両。それに乗って、いつも通り家に帰る。
――はは、と乾いた笑いが漏れた。
「あ~死にてぇ~」
眼のふちに涙をにじませつつ、口元は笑っている自覚があった。
だれかいっしょにかかえてくれるひとがいればいいのに、と。こころでつぶやいた。