第八十八話 公平の母
キーンコーンカーンコーン♪
雪は帰る支度をしていた。
「先生、入院費のこと・・・どうしよう・・・」公平が困った様子で聞きに来た。
「そうね。今からお母さんのお店に連れて行ってくれる?」
「でも・・・空手は?」
「今日は無理だわ。」
「ごめんね、先生・・・」
「何言ってるの、いいのよそんなの。」
「うん。」
「ここ。」
公平は母親が働いている店に雪を案内した。
雪は中に入って行った。
「あの・・・すみません・・・」雪は恐る恐る声を出した。
中から男が出てきた。
「はい。」不機嫌そうに男は答えた。
「真野さんはいらっしゃいますか?私、真野さんの息子さんの担任なんですが・・・」
「担任?あーちょっと待って!・・・小百合!なんか学校の先生が来てるよ!」
「あ・・・はーい!」公平の母親の声がした。
奥から公平の母親がタバコを吸いながら出てきた。
「あの・・・初めまして私、公平くんの担任の荒井です。彼の事でちょっと・・・」
「何なの?」
「あの・・・入院費が支払われていないとかで・・・学校に連絡があったんですが・・・」
「あーー入院費ね。ちょっと待って。」
母親の小百合は自分のバッグから封筒を取り出し、それを雪に渡した。
「え?」
「悪いけどさあ、先生、それ渡しといてくれる?」
「え・・・ご自分で渡された方が・・・」
「私さ・・・忙しくて行けないのよ。」
「でも・・・」
「お願い先生!ね!」そう言って小百合は雪を追い出した。
「え・・・ちょっと・・・」
店のドアも閉められた。
「先生・・・ごめんね。」公平は寂しそうに雪に言った。
真野・・・
「忙しいのなら仕方ないわね・・・まあ・・・お母さんが働かないと入院費だって
払えないわけだし・・・」
「うん。」
「お母さん・・・お見舞い・・・行ってないのかな・・・」雪は公平に聞いた。
「忙しいのもあると思うけど多分・・・」
「多分?」
「見るのが怖いんじゃないかな・・・僕の入院してる姿・・・」
「そうなの?」
「ああ見えて母ちゃん・・・すごく優しいんだ。きっと僕が事故に合ったのも
僕の事をほったらかしにしたからなんじゃないかとか、思ってると
思うんだよね・・・いつもそうだから・・・」
「そう・・・」
そう言って公平は歩き出した。雪もその後をついて行った。
店の中で小百合は化粧をしながら鏡に向かってつぶやいていた。
「ごめんね・・・公平・・・だめな母ちゃんで・・・」




