第八十五話 寝顔
二人は家に帰り、ふと何気に雪は部屋のカレンダーを見た。
「あ・・・忘れてた・・・」
「どうしたの?先生・・・」
「試合・・・」
「試合?」
「空手の試合・・・申し込んだんだった・・・」
「そうなの?いつ?」
「来週の日曜・・・」
「じゃあほぼ1週間あるじゃん!」
「え・・・1週間しかないのよ?!」
「なんで?そんなの余裕じゃん」
「若いあなたならね・・・1週間で体力なんてつかないわよ。」
「大丈夫だよ!明日から稽古に通えばいいし。学校忙しいの?」
「いえ・・・今は特には・・・」
「じゃあ明日から行こっ!」
「そうね。行かなきゃ無理よね・・・あーーーバタバタしてて忘れてたなんて・・・
負けたくないわよね・・・どうせ出るなら勝たなきゃ・・・」
「なんなら僕が毎日教えてあげるよ!」
「どうやって?」
「道場で」
「道場で?」
「うん。じゃあ先生、明日から頑張ろうね!」
「ええ。よしっ!頑張ろっ!!」そして二人はベッドに入った。
「ねえ・・・先生・・・」
「何?」
「たまにはこっち向いて眠ってよ」
「え・・・いやよ」
「何で?どおせ触れられないんだよ僕」
「それは解ってるけど・・・」
「先生の寝顔見ていたい・・・」
はあーっ・・・あーー・・・・だめだわ・・・こいつのこれに弱いのよね・・・
雪はゆっくりと公平の方を向いた。
あーーー向いちゃったよ・・・・
公平が雪に手を伸ばしてきた。
雪は思わず目を閉じたが公平のその手は雪の顔を通り抜けた。
「悔しい・・・こんなに近くにいるのに・・・触れられないなんて・・・」
公平が言った。
雪は黙って公平の顔を見ていた。
「いつか・・・戻るよね・・・僕・・・死なないよね・・・」
「ええ。きっと戻る。大丈夫だから・・・今は私の寝顔だけで我慢して」
「うん」
あれ・・・何言ってんだろ・・・私・・・
そして雪は目を閉じた。




