第三十九話 反対方向
「おはよう!亜紀。」亜紀の家の前で輝が手を振った。
「輝!おはよう。」亜紀は家の門から出てきた。
「昨日は良く眠れた?」輝が聞いた。
「うん。」
学校まで続く坂を二人は並んで下りた。
「ねえ・・・輝・・・」
「何?」
「輝の家・・・反対方向でしょ。学校を通り過ぎて家まで迎えに来るなんて、
朝大変だったでしょ。」
「いや。反対方向って言っても家から学校まで20分くらいだし、亜紀の家は
学校から近いから全然平気。」
「でも・・・そこまでしてくれるって・・・なんか悪くって・・・」
「だってさ・・・心配じゃん。亜紀ん家は公平の家に近いし、もし一人でいる時に
あいつと出くわしたらって思うとさ。」
「どうして・・・なんでそんなに優しいの・・・?」
「そんなの・・・亜紀の事が好きだからに決まってるじゃん。」
「輝・・・」
二人はしばらく黙って歩いていたが、亜紀はまた輝を見て言った。
「なんで・・・?私のどこがそんなにいいの?公平なんてちっとも私のことなんて
好きになってくれなかったのに・・・」
「そんなの人それぞれじゃねえの?多分さ・・・公平が年上の女の人を好きに
なるのってさ・・・あいつん家の母親って家にずっといないことが多いじゃん。
だから母親とか求めてるんじゃないかな。」
「そう・・・なのかな。」
「うん。でも俺はどちらかと言うとああいう大人の女の人よりは亜紀みたいな
可愛い子の方がタイプだからさ。」輝は恥ずかし気に言った。
「可愛い?ホントに・・・?」亜紀は少し顔を赤らめ小さく微笑んだ。
「うん。可愛いじゃん・・・だからさ・・・俺と付き合ってよ。」
「本当に私で・・・いいの?」
「いいに決まってんじゃん。」
「でもね・・・でも・・・私まだ公平のこと・・・こんな気持ちで輝とは
付き合えないよ。」
亜紀はうつむいて言った。
「分かった。じゃあ亜紀が俺の事を好きになるまで友達って事で・・・」
亜紀はうなずいた。
そして――――
亜紀は校門の前で立ち止まった。
「亜紀?」
「私が手首を切ったこと・・・きっと・・・学校中に広まってるよね・・・
どうしよう・・・」
「大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃないよ・・・自分がやったことだし・・・覚悟を決めて来たつもり
だったけど・・・やっぱり怖いよ・・・みんなに色々聞かれるのかな・・・
それとも無視とかされるのかな・・・」
「俺がついてるからさ・・・行こう!」
輝は亜紀の手を引き校門の中に入った。
そして3年B組の教室の戸を開けた。
ガラガラッ
クラスの女子生徒が亜紀を見て言った。
「亜紀!大丈夫!!」
亜紀はクラスメートの最初の一言に驚いた。
「なんか料理してて大けがしたって聞いたけど・・・なんか部活とか結構バタバタ
しててお見舞いとかぜんぜん行けなくてごめんね!ま・・・輝が毎日通ってた
みたいだしっ・・・邪魔してもあれかなーと思って。」
クラスの何人かは亜紀を見てニヤけていた。
「え・・・?」
亜紀は輝を見た。
輝は亜紀にヴイサインをしていた。
・・・輝・・・あなたなの・・・?
亜紀の目からは涙がこぼれ落ちそうになっていた。




