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「おもしろかった……」
前に本屋で買った本があまりにおもしろくて、同じ作者の作品を全部読んでしまった。全部ニコルの好みにあって、この作者の作品をもっと読みたくなる。
「作者、隣国の人なんだ……他にも著作はあるのに、翻訳されてるのはここにあるだけ……読みたい!」
自室の本棚に並んだ本を眺めて、ニコルは唸った。
隣国の言葉で書かれた原書を読めればいいのに、と思い浮かんで、はたと気づいた。
そうだ。隣国の語を読めるようになればいいのだ。
「勉強して。原書を読めるようになろう!」
***
王女キャロラインと隣国の王子との婚約が発表された。
王女は翌年の春に輿入れするそうだ。
(ケイオス様はどうするんだろう。隣国へ着いていくのかな)
キャロラインを守ると言っていたが、隣国で近衛になるのは難しいだろう。隣国へ輿入れする王女に会える立場となると、外交の仕事に就いて大使として隣国に赴任するとかではないだろうか。
(私はどうなるだろう。隣国へ行くなら私とは婚約解消するのかな。それとも、一応結婚はするのかな)
そもそもケイオスは侯爵家の嫡男なのでそう簡単に隣国に行けるとは思えないが、彼には弟が二人いるので弟に家を継がせることも出来る。キャロラインのためなら爵位を捨てて隣国で一から頑張って出世するつもりかもしれない。
どっちにしろ私に構う暇はなさそうだ、とニコルは思った。
ニコルはここ最近は図書館に通って隣国の語学を修得しようと勉強している。もちろん、ひとりで。
熱心に学んでいるのは偏に隣国の本を読みたいからなのだが、その姿を見かけた学友はこう誤解した。
ニコルが隣国の語学を学んでいる。+キャロラインが隣国へ輿入れする。=ケイオスがキャロラインについて隣国へ行くのでその婚約者のニコルも隣国の語学を身につけようとしている。
「ケイオス様がキャロライン様のお側にいたいがために、ニコル様まで隣国へ連れて行かれるなんて」
「いや、ケイオス様はニコル様を捨てて隣国へ行くつもりだ。ニコル様はケイオス様を追いかけるために言葉を学んでいるんだろう」
「あんなに必死に勉強しているということは、「俺と結婚してついてきたいなら死ぬ気で言葉を身につけろ」と脅されたのでは?」
そんな噂が流れ出した。