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「最近、婚約者と会っているのか?」
生徒会室での仕事中に、不意にキャロラインがそう切り出した。
尋ねられたケイオスはのろのろと顔を上げた。
「何故ですか?」
「いや、以前は度々「婚約者と茶会の約束が」と言っていたのに、最近はそれがまったくないし、お前はいつも私の側にいる気がして」
キャロラインに指摘されて、ケイオスはふと仕事の手を止めた。
(あれ? そういえば、最後にニコルと茶を飲んだのはいつだ?)
思い出せなくて、ケイオスは首を傾げた。
(そういえば、手紙も見ていない……)
ニコルからは前は定期的に手紙が来ていたのに、ここ最近は何も届いていなかった。
「ケイオスの婚約者なら。こないだ街で見かけたな。ひとりで買い物に来た様子だった」
生徒会メンバーの侯爵令息が言った。
「俺は本屋で熱心に二冊の本を吟味している姿を見かけて声をかけてみた。生徒会だと言ったら安心してくれたみたいで、「どっちの本を買うか迷っている」って言ってた。片方は前にケイオスに借りて読んだ奴だったから、ケイオスに頼めば貸してもらえるよって言っておいたんだが」
伯爵令息もそう言ってちらっとケイオスの顔を窺った。
ケイオスは苦虫を噛み潰した顔をした。ニコルが本を借りに来たことはない。
「私が言えた義理ではないが、婚約者をあまり蔑ろにするな」
「……はい」
キャロラインにたしなめられて、ケイオスは渋々頷いた。
ここのところはキャロラインの周りが慌ただしくて、ニコルのことを考える暇がなかった。
キャロラインと隣国の王太子の婚約が整いそうなのだ。王太子と言っても、キャロラインよりも十三も年上だが、王族の結婚ではそれぐらいの歳の差は珍しくない。
キャロラインが隣国に行くことになれば、もう二度と会うことはないかもしれない。
だからこの国にいる間は、キャロラインの役に立ちたかった。
しかし、ニコルが一人で街へ行っているというのは気になる。本当に一人でふらふらしているんだとしたら危ない。なんで一人で街へ行っているのか、一度問いただしてみなければ。
ケイオスはそう決意した。
そういえば、もうじき花祭りだ。去年は白い花を贈った。綺麗な花だったのでキャロラインにも一輪渡したのだった。
(今年も同じ花でいいか)
花の種類はよくわからないし、ニコルが好きな色も知らない。白ならば嫌いな人間はそういないだろう。去年も何も言われなかったし。
そう考えながら、ケイオスは仕事に集中していった。
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「そうだ。このままだとケイオス様は一応私の分の花も用意してしまうかもしれないわ。去年みたいに」
はたと気づいて、ニコルは呟いた。
わざわざニコルの分まで用意させるのも悪いし、今年はいらないと断っておこう。
そう考えて、ニコルは久々にケイオスに手紙を書いた。