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交流会の日がやってきた。
普段通りに学園に登園し、クラスでの朝礼を終えた後にホールへ移動する。男子生徒は婚約者のクラスへ迎えに行き、女子生徒は婚約者が迎えにくるまで教室で待つのだ。
いつものニコルは残っていても意味がないので、目立たないようにさっさと移動するのだが、今日は他の令嬢達と一緒に教室に残っている。
同じクラスの令嬢達はケイオスから事情を聞いているので、ニコルの様子をちらちら窺っている。
「ニコル!」
そこへケイオスが現れた。
「すまない、待たせた」
「いいえ。ありがとうございます」
若干息が切れているケイオスに、ニコルはにっこりと微笑んで隣に立った。
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
教室からニコルを連れ出す際、クラスメイトの令嬢達がぐっと拳を握ってケイオスへ激励を送る。ケイオスもそれに応えて拳を握った。「しっかりやれよ」「おう」という魂の会話を交わしつつ、ケイオスはニコルをエスコートして交流会場へ向かった。
生徒が全員集まってから、生徒会長であるキャロラインが壇上に現れる。
いつもはケイオスが横についているのだが、今回はケイオスではなく大人の男性が傍らにいた。美髯をたくわえた、長身の美丈夫だ。
「皆、いつものように交流会を楽しんでほしい。今日は私の婚約者である隣国の王太子殿下もいらしてくださった。この国の将来を担う諸君の自然な姿を見せてもらいたい」
キャロラインの隣に立つダンディな男性は彼女の婚約者の王太子だった。
ニコルは目を瞬いた。
(あの方がキャロライン様の……)
ケイオスの反応が気になって、ニコルは隣の彼を見上げた。
嫉妬に顔を歪ませているか、切なげに目を細めているかと思ったのに、ケイオスは壇上を見ていなかった。何故かニコルをじっと見ていたため、ばちりと目が合う。
「あ……」
「な、何か?」
「いや……」
びっくりしたニコルが尋ねると、ケイオスはふっと目を逸らした。
(何か顔についていたかしら……?)
ニコルは何故見られていたのかわからず首を傾げた。
(はっ! そうか。キャロライン様と隣国の王太子殿下が並んでいる姿を見たくなかったから、私のことを見ていたのね。そうよね。いつもならキャロライン様の隣にはケイオス様がいたんだもの……仕方がないとはいえ、切ないわね)
このところ、隣国の作家の手による恋愛小説を読んでいたためか、ケイオスの複雑な感情が想像できた。
一人納得するニコルを余所に、ケイオスはひたすら緊張していた。
(真摯に誠実に……愛……愛とは何だ?)
ここ数日、悩みすぎてちょっと哲学の域に至っている思考回路で、ケイオスはニコルの機嫌を取ろうと必死だった。