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生徒会室に入ると、頭を抱えて絶望しているケイオスとキャロラインがいた。
「ど、どうした?」
ただごとではない気配に思わず尋ねると、ケイオスがのろのろと顔を上げた。
「……ニコルから返事が来たんだ」
青白く窶れた幽鬼のような顔で便箋を差し出されて、伯爵令息は恐る恐る受け取った。隣の侯爵令息とともに便箋を覗き込む。
そこにはこう書かれていた。
『交流会のエスコートのお申し出、ありがとうございます。よろしくお願いします。
でも、貴方は私を愛しているんじゃない。貴方の装飾品の一つだった私を失くしたのが惜しいだけ。』
「うわああ……」
「ひえぇぇ……」
背筋が凍った。恐怖だ。もしも自分がこんな手紙を婚約者から送られたと思うと、奥歯ガタガタ鳴らしてしまう。しょんべんちびりそう。泣いちゃう。
「おい、どうすんだ。これ……」
「こっちが聞きたい。どうすればいいんだ……?」
ケイオスは完全に途方に暮れていた。
「まあ、確かに……これまで散々放っておいて、向こうが遠ざかった途端に態度を変えたら、ニコル嬢からしたら「愛してる訳じゃなくて、婚約者が必要なだけでしょ」って感じなのか」
伯爵令息の言葉に、ケイオスはがっくりと俯く。
確かにそう言われればそうなのだが、でもここで追いかけなかったら取り返しのつかない事態になりそうな気もする。
「愛が……愛があればいいのか……」
ぶつぶつと呟きだしたケイオスに、男二人は哀れな者を見る目を向けた。自業自得といえばそうだが、ここまで拗れるとは。
「愛は置いておいて、とにかく真摯に向き合えばいいんじゃないか」
「そうだな。愛してほしいというよりは、誠実な態度を見せてほしいと思っているんじゃないか、ニコル嬢は」
「真摯……誠実……」
ケイオスは頭の中が愛と真摯と誠実でいっぱいになってしまったらしくふらふらしている。
交流会までになんとか立ち直ってもらいたいものである。
「ニコル嬢の気持ちを思えば、私はもう何もしない方がいいのだろうな……」
「ええ。キャロライン様には出来ることはないと思います」
「ああ。しかし、学ばせてもらった。己の愚かさを忘れずに、今後は人の和を乱すような真似は決してすまい」
ケイオスの絶望と引き換えにではあるが、キャロラインは王女として一つ成長を果たしたようだった。