15
ケイオスから手紙が届いたと思ったら、それが交流会でエスコートさせてほしいという内容だったのでニコルは驚いた。
「何かあったのかしら?」
首を傾げたニコルははたと気づいて手を打った。
「そうか。キャロライン様はお輿入れが決まったのだもの、今までのようにケイオス様がお側にいるのは流石に良くないのね」
そういうことなら納得だ。「よろしくお願いします」と便箋に返事を書く。
些事を済ませると、ニコルは今日も楽しい読書タイムに突入した。努力のかいあって、隣国の単語も少しずつ読めるようになってきた。
「ふむふむ……これは恋人達のすれ違いのお話ね……」
優柔不断な男に耐えられなくなった女が逃げ出し、後悔した男が追いかける話のようだ。
「う~ん、どうして居なくなるまで彼女への想いに気づかないのかしら? 彼女はもう新しい生き方を始めているのに、今更だわ……」
読みながらぶつぶつ呟く。この作者の話はヒロインがたくましいので、男が追いかけてきてくれたぐらいでは感激してよりを戻したりしない。
『私はもう、あなたに期待するのが嫌なの』
ヒロインはきっぱりと別れを告げる。ニコルはうんうんと感情移入しながら読んだ。
「男はまだ諦めないのね。最後はどうなるのかしら……」
辞書と睨めっこしながらなのでなかなか進まない上に、どうしてもわからなくて飛ばしてしまっている箇所もある。
「ええと、ここは……貴方は、私を、愛……愛している……んじゃない。……」
ニコルは辞書を睨みつつ、手近にあった紙に訳を書き付けていく。
「でも、貴方は私を愛しているんじゃない。貴方の装飾品の一つだった私を失くしたのが惜しいだけ。……か」
うむうむ、なるほど。と頷きつつ、ペンを置く。
「今日はここまでにしようかな」
きりのいいところで本を閉じて、ニコルはんーっと伸びをした。
「あ、そうだ。ケイオス様への返事を送らないと」
机の上の便箋を一枚取って封筒へ入れ、執事に渡すために部屋を出た。