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「でも、ケイオス様はいつもキャロライン様のことを考えているじゃありませんか」
ニコルは困ったように眉を下げて言った。その表情は、嫉妬しているとか拗ねているというより、聞き分けのない子供を叱るような顔つきだ。
「去年の行商の市を見に行った時だって、目に入るものへの感想はすべて「キャロライン様がお好きそう」「キャロライン様に似合いそう」でしたし、最終的に「キャロライン様のために剣の稽古をしていた方がマシだった」とおっしゃられてお帰りになりましたよね」
そう言われて、ケイオスは思わず絶句した。
否定したいが、去年の記憶を探ってみれば、確かに心当たりがなくもない。
「いや、違う。それは……」
「いいんです。よく知りもしない婚約者と一緒にいるより、大切な方のために励む方が有意義ですよね。私も、一人で行動した方が楽でしたし」
ニコルはケイオスの気持ちを理解したとでも言いたげにうんうん頷いている。
違う。誤解だ。確かに、今にして思えば自分の言動は誤解されても仕方がなかったかもしれない。
けれど、本当に違うのだ。キャロラインは今でも男勝りだが、幼い頃は本当に男の子のようだった。だから、ケイオスはほとんど男友達と同じ扱いでキャロラインに接してきたのだ。
けれど、学園に入学すると流石にキャロラインは王女らしく振る舞わなければならなくなり、剣を手にするのも禁じられてしまった。だから、落ち込むキャロラインに「俺がキャロライン様の分まで強くなって守りますよ~」と、軽い励ましのつもりで口にしていただけだ。
本当は男みたいな格好をして剣を振り回していたいキャロラインが、我慢して王女らしくしているのを見ていると不憫で、「あの男物の服似合いそう」「あっちの剣と鎧の店、好きそう」とつい思い浮かべてしまった。長く伸ばした髪を昔みたいに短くしたいとぼやいていたから、髪が邪魔にならないようにまとめられる髪飾りが目に留まったし、本当は外を走り回りたいのを我慢しているので、退屈を紛らわす本はないかと探してしまった。
それに、よく知りもしない婚約者というか、キャロラインと違って普通の女の子であるニコルとの付き合い方がわからず、男友達みたいなキャロラインと一緒にいる方が楽だった。
だからつい、楽な方へ逃げてしまったのだ。
しかし、今、そのせいでとてつもなく面倒くさい事態になっているのだと、ケイオスはようやく理解した。
「ニコル……」
「ケイオス様はお好きにしてくださって結構ですよ。ただ、今から婚約解消されてしまうと、もうまともな相手とは結婚できないので、白い結婚でも構わないので出来れば結婚だけはしていただけると……」
手を組んで上目遣いに、申し訳なさそうに「白い結婚」をお願いしてくる婚約者に、ケイオスはここからどうやって挽回すればいいのかわからず手で顔を覆った。