11
「私が間違っていた」
生徒会室にやってくるなり、キャロラインが深刻な表情で告げた。
「事態は思っていたよりも深刻だ。ケイオス、このままでは白い結婚になるぞ」
「は?」
面食らうケイオスに、キャロラインは茶会で得たニコルの情報を細大漏らさず伝えた。
ニコルはケイオスがキャロラインについていくと思っており、自分とは婚約解消になると思っている。今後、自分にはまともな縁談は望めないと思うので出来れば白い結婚でかまわないので結婚だけはしてもらえるとありがたいと言っている。
「な、なんでそんな話に……」
婚約解消もあり得ないが、若い男子に「白い結婚」はインパクトが大だ。思わず「え? 出来ないの?」と口走りそうになった。
「完全に誤解されている! いや、誤解させた我々が悪いのだが……嫉妬して怒っているのなら、誤解を解けばそれで済むと思うが、どうもニコル嬢は嫉妬しているようには見えない」
「それなんですよね」
キャロラインの言葉に、伯爵令息も頷く。
「嫉妬と言うより、ケイオスのことをどうでもいいと思っていそうな感じがするんですよ」
花祭りの日にケイオスに特に用事はないと言い切ったニコルは、強がっているようには見えなかった。
「とにかく、まずは会話するべきだろう。今日の放課後、デートに誘うんだ」
侯爵令息にそう命じられ、ケイオスは目を白黒させつつ頷いた。
ニコルは上機嫌だった。何故なら、今日は注文していた隣国の本が届く。
まだまだすらすら読むことは出来ないけれど、少しずつ訳していつか自分の力で読み通せたらいいな。楽しみだ。
「ニコル」
「あ、ケイオス様。おはようございます。昨日はお誘いありがとうございましたとキャロライン様にお伝えください。では」
「待て待て待て!」
足を止めずに前を通過しようとすると、力強く引き留められてしまった。
「あの、何か?」
「今日の放課後、街に行く」
「キャロライン様とですか?」
「違う! お前とだ!」
ニコルは目を瞬いた。
「私と? 何故……」
「婚約者だからだろうが! 街へ行って、茶を飲むぞ!」
勝手に予定を決められてしまっているが、ニコルは困惑した。
今日は早く帰りたいのだ。一刻も早く本を読みたくてたまらないのに。
「申し訳ありません、今日は」
「用事でもあるのか?」
「……いえ」
「ならいいだろう」
放課後、迎えに来ると言われて、ニコルはがっかりした。早く帰りたかったのに。
(放課後までにキャロライン様の話題、何か考えておかなくちゃ駄目かな……何も思い浮かばないや)
ニコルは深い溜め息を吐いた。