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1番好き(1)

 目が覚めると、ゲイル様はもう王都に向けて立たれた後で、いらっしゃらなかった。最後にお見送りしたかったのに、と残念な気持ちになりつつ、暗闇の中気怠い体を起こす。

 つい先程までゲイル様がいらっしゃった部屋。そこに一人で残され、感じるのは激しい喪失感。しかし枕元に置かれていたメッセージカードを見て、そんな気分も少しはマシになる。短く走り書きで「しっかり寝て、体を労るように」と書かれたカード。その筆跡からすると、本当に時間ギリギリまで一緒にいてくれたのだろう。そのカードをゲイル様に見立て、数刻前までにしていたのと同じように、軽く口付けた。


 もう既に夜なのに、大好きなあのお日様の匂いがしたような気がした。


 


 不思議と、怒るどころか全く触れずにノーコメントを貫いてくるメアリに姿を整えられ、再び街に出たのはゲイル様が帰った翌々日。自ら言う様な事でも無いし、痕が沢山残っているため言わなくても分かるはずなのだが、触れられないのが、逆に怖い。


「若奥様、こんにちは。いい天気ですね」


 変わらぬ様子で挨拶してくれる街の人達。きっと、この人達も……私がしばらくここにいるのを知っていたのだろう。王都にはもう帰れないと、知らなかったのは私だけなのだ。悲しくて、王都の方角の空を見上げる。


「──コラ! 来るな、俺たちの畑を荒らすな!!」


 聞こえてきたのは子供と思われる声。まさか泥棒? いやいや、畑を荒らす害獣? 気になったので一緒について来ている護衛に許可を取って、共に声がした方へ向かった。


「どうかしたの?」


 私が声を掛けたのは、家の裏の畑で木の棒切れを振り回している一人の少年。歳は10歳くらいだろうか?

 こちらに気がついた少年は、マズイといった顔をして棒切れを投げ出し逃げ出した。何があったのか分からないが、咄嗟に私についてきていた護衛がその少年を引っ捕らえて私の前まで連れてくる。


「別に捕らえなくてもよかったのに……」

「アルエット様。逃げるということは、やましい事があるのです」


 護衛の言う事が図星だったのか、非常に気まずそうな顔をする少年。


「ごめんなさい……鳥が畑を荒らしに来るから、棒で追い払ってた」


 何もやましくなんて無かった。なのに、少年を捕らえている護衛が、少年の尻を思いっきり叩く。


「これで見逃してやるから。次から気をつけろよ」


 解放されて家の中に飛び入っていく少年。私は訳が分からなくて目がまんまるになっている。


「……どうして叩いたの?」

「クレセント領では鳥は幸福の象徴。鳥に害を与えようとする武力行為は、罰せられる事もあります」


 その理由を聞いて、ますます訳が分からなくて目を丸くする私。


「ざっとクレセント特有の法もお勉強したけど、そのような物は無かったような気がするのだけど」

「法ではなく慣習ですね。クレセント伯爵家の方々は大らかなので何も言いませんが、私達庶民の生活は伯爵家のおかげで成り立っている。クレセントの象徴である鳥に害を与える事は、反勢力と見なされる慣習が庶民には昔から根付いています」


 数代前のクレセント伯爵が、慣習に則って罰を与える事を禁じたのですが……それでも長い時を経て人々に根付いた物を無に返すのは難しい。過激派に見つかると子供でももっと酷い目に遭わされるのです。と教えてくれる。


「……あの子、大切な畑を守ろうとしただけなのに」

「外からやって来た人にとっては、理解し難い慣習でしょうね」


 確かに、理解できない。鳥を大事にしようという気持ちや、風習がクレセント伯爵家に対する尊敬と感謝の念から来ているというのは理解できるが……それと処罰は関係ないもの。


「じゃあ、武力で無い方法で追い払わないといけないのね」


 少年が逃げる様にして飛び込んで行った家のドアをノックする。しばらくすると怯えた様子で先程の少年と、もう1人弟らしき6歳くらいの少年が顔を出した。


「ごめんなさい。まさか若奥様がいるなんて思わなくて……酷いことをしてごめんなさい……」


 私からも怒られると思ったのだろうか。泣きそうな顔で私に謝罪してくる少年に笑顔を向ける。


「私は確かにゲイル様の婚約者だし、鳥も大好きだけど、別の地方から来た人間だから。馴染みの無い風習に則って怒ったりはしないわ。それよりも、」


 絵の具とか、要らない木片とか布は無い? と問いかけた私に、周りにいた全員の目が点になった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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