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終の住処(6)

 胸元にしがみついていた両手を離し、自分の胸の上に置いて深呼吸する。声が震えないように、泣いてしまわないように、しっかりと呼吸を整えてから切り出す。


「……じゃあ、ゲイル様に3つお願いがあります」

「なるほど、確かに私は個数制限はしなかった。ではその3つを聞こうか」


 図々しくもお願い事が3つあると発言した私を、受け入れてくれるゲイル様。


「まず、私を肴にして深酒するのはやめてください。肴にするのはいいのですが、毎晩深酒すると健康によくないですから」

「待て待て、貴重なお願い事の1つがそんな物でいいのか?」

「いいんです、ゲイル様が健康でいてくれる事が嬉しいのですから」


 少し悩んだ後に、何でも聞くと言ったのだから叶えようと返事をくれる。……今、悩みましたね?


「2つ目は、私の事を忘れないでください。お手紙書きますから、お返事が欲しいです」

「それは当然だろう。もしや3つともその程度のお願いか?」


 ゲイル様にとってはその程度でも、私にとってはメッセージカードでも大切な宝物。離れていても、愛し愛されていると分かる手紙は、きっと別々の場所で生きていくには不可欠だ。


「私にとっては、その程度レベルではないのです! とっても大切で、ゲイル様を好きで想い続けて行くには必要な物です!」


 強い口調で言い切る私を見て、緩く笑うゲイル様。


「そうか、ならば必要だな。では3つ目は何だ?」

「3つ目は……」


 言葉に詰まる。ゲイル様が覗き込むようにして私の表情を伺う。


「それ程までに、言い難い事か? ……まさか私と別れたいなんて言わないだろうな? そんな事願われても叶えてやれないぞ」 

「……叶えてくださるか分からないし、言い難い事であるのには違いないです」


 私の返事を聞いて、顔を真っ青にして慌てるゲイル様。


「ちょっと待て! 待ってくれ、私はアルエットを手放すなんて絶対にしないからな。確かに何でも叶えるとは言ったが、それは私とアルエットが共にある前提があっての話で……!」


 逃がすまいと私の体を掻き抱くようにして捉えてくる。ぎゅうぎゅうと絞め殺されそうなくらいに強く抱かれてしまい、思わず呻き声を上げた私にハッとしたのか、謝りながら慌てて力を少し緩めてくれる。しかし離す気配は全くない。


「嫌だ……辞めてくれ。アルエット、どうか否定してくれないか? 頼むから……」


 まるで羽根が抜けて惨めな姿になってしまった鳥のような、あまりに可哀想な様子に少し心が痛む。仕返しに意地悪するのはこれくらいにしようと、ゲイル様の耳元に顔を近づけて、3つ目のお願い事を小さな声で口にする。


「……今、何と?」


 先程までの惨めな姿はどこへ行ってしまったのか。今度は呆けた顔で、聞き直してくる。


「もう……2回は言いません!!」


 頬を膨らまして俯き、ゲイル様から目を逸らす私の顔は、熱が集まってボタンの頬の模様のように赤い。恥ずかしくて耐えられず「やっぱり結構です……聞かなかった事にしてください」とゲイル様の胸を両手で押すが、離してもらえるわけは無かった。


「……一生、心の底から愛し続けると誓おう。だから、ずっと……私だけのアルエットで」


 耳元で囁かれる言葉と、興奮と艶の混じった熱い吐息。私を下敷きにするように、私を抱えたままベッドに倒れ込むゲイル様。流石、買い替えられたばかりの大きなベッドは素材は良い物なだけあって、そんなことをされたって痛くない。貪るように口付けられたって、接した肌が熱を持ったって、抜群の通気性で不快感を抱かせない。ゲイル様から与えられる、生チョコレートのように甘く蕩けるような快楽も、壊れてしまいそうな灼熱感のある痛みも。何もかもが私には初めての感覚。


 私を包む鳥籠は、私を地面に縫いとめる杭となり、この身は捉われ、注がれるような寵愛を向けられる。


 そして、この杭に縫いとめられる事を望んだのは、私自身だった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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