贈物作戦
私とゲイル様の婚約が正式に届けられたと聞いたのは、初対面のお茶会翌日の昼食前だった。「明日届け出る」と言っていたゲイル様は、本当に有言実行したらしい。お父様から「アルエットの気持ちも考えず決めてしまい申し訳ない」と謝罪を受けたが、お父様は悪くない。武神の進退が懸かっていたのなら、返事は一択。国防を考えるなら当然だった。
「どうしてもアルエットが良いと言われ、押し切られてしまってね。何処かで見初められるような出会いが有ったのか?」
フルフルと顔を横に振る。どうやらお父様にとっても、何故私が選ばれたのかは謎のようだ。あえて言うならゲイル様の鳥と思われるモフモフを助けたが……私が助けたなんて分からないはず。だってエナガ系の鳥は喋らない。
「そうか……まぁなんとなく理由は推測できるが。結納金も相場の倍額押し付けられてしまったし……頭が痛いな。格上相手にどう対応すれば良いのやら」
少し多いくらいと聞いてたのに、まさかの倍額だった。いつも飄々として、早くに妻であるお母様が亡くなったにも関わらず再婚もせずに、一人で淡々と領地と家を切り盛りしてきたお父様が、こんなに思い悩んでいる姿は初めて見たかも知れない。
「お父様、悩ませてしまって申し訳ございません」
「いや、アルエットが謝るような事ではないよ。鳥しか眼中に無く一番領地に篭っていた娘が、一番初めに出て行く事になるのが予想外すぎて、私の心構えができていなかっただけだ」
小さい頃と同じように、ポンポンと頭の上を撫でられる。
「挙式もアルエットが結婚出来る歳になれば即座にと、クレセント伯爵がご希望されている。……寂しいな。もっと一緒に暮らせると思っていたのに、あと約一年しかこの家に居ないなんて」
「私も……ちょっとまだ信じられなくて」
なんせこの急展開である。まだ夢の中にいるのではないかと……いまだに疑ってしまっている。
「メアリから話を聞いたよ。クレセント伯爵は大層アルエットをお気に召して離さなかったらしいね? 見た目に反して中身は悪くない人だし、きっとアルエットなら上手くやっていけると信じているが……もし辛い事をされたらお父様に言いなさい。頼りないかも知れないけれども、結婚するまでアルエットはこのカメリアの人間なのだから、守ってあげるのは父親である私の仕事だよ」
「はい。でもゲイル様は鳥を飼うのを許してくださいましたから、きっと大丈夫です」
また鳥か、とお父様は紫色の目を細めながら少し苦笑して……まるで母親のように優しく、私を抱きしめた。
◇
「アルエットお嬢様。今日もクレセント伯爵からプレゼントが届きましたよ」
正式に婚約が届けられた翌日から、毎日のようにクレセント伯爵から贈り物が届くようになった。靴から始まりアクセサリーや帽子、ついには可愛いオレンジ色のドレスまで。王都で有名なデザイナーが経営する店で仕立てられたらしい、普段着ではない他所行きのドレス。私が持っているどのドレスよりも高額なのが明確であった。
「私がオレンジ色が好きって言ったから?」
聴取された時に答えた通りのデザインや色で揃えられているプレゼント達。好みもサイズも完璧で、ここまでくると嬉しさより恐ろしさの方が勝る。サイズに関しては、お教えした記憶は一切ない。
「メアリ、私の服のサイズお教えしたの?」
「いいえ? 私の可愛いお嬢様を物で釣ろうとするお方に、サイズなんてお教えしません」
メアリの中でのゲイル様の印象が悪すぎる。第一印象が悪かっただけあって、メアリにとっては贈物作戦も逆効果のようだ。
しかし、情報の出所がメアリでないのならどこから服のサイズ情報なんて入手したのだろうか?
「とりあえず、毎日のように頂いては申し訳ないから……次にお会いした時に辞めてもらうようにお願いしなきゃ」
私のせいでクレセント伯爵家の財政が傾いては困る。姉妹達には「貰えるだけ貰っておけばいいじゃない」と言われたが、これから長く暮らす場所で使用人達に悪者扱いされるような事態は避けたい。
「あら、このドレスはメッセージカードが付いていますよ。お読みになりますか?」
カードが付いていたのは初めてで、メアリから受け取り目を通す。次に会う時はこのドレスを着て欲しいと、顔のイメージ通りの角張った文字でシンプルな文章が綴られていた。
「メアリ、明後日お会いする時はこのドレス着ていくね。靴も先日戴いた物を合わせて?」
「幼すぎるデザインでなく、お嬢様の好みに沿ってあった点に関しては安心しましたが……婚約後早々にお嬢様を好きに飾ろうだなんて! 独占欲丸出しなのが気に食わないです」
きっと何をしてもメアリは「気に食わない」と言うと思うよ? と思ったが、それは口にしなかった。
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