望まれて
お茶会という名の……質問責め大会が終わる頃にはすでに夕方になっていた。好きな物や趣味、得意な学科から好みの色まで「何の調査?」と言いたくなるくらい続いた会話。しかもそれが雑談風にでは無く、まるで犯罪者を取調べするかのように聞かれるものだから、緊張からかすっかり肩が凝ってしまった。
一方、私が知ったゲイル様の事と言えば、年齢やお誕生日、経歴といった基本データのみである。ずっと私を睨みつけながら聴取してくるのだから、仕方がない。
(ゲイル様は二十五歳の冬生まれか……ちょっと風変わりで癖のある人だけど、その若さで将軍位を賜り武神とまで言われるなんて、やっぱり凄い人なのには間違いないのよね)
「アルエットお嬢様、お気を確かに……」
乗り込んだ帰りの馬車の中、私より思い詰めた顔をして震えているメアリに励まされる。
私を守れなかったと後悔しているらしいメアリ。ずっと小さい時から私の専属侍女として世話をしてくれて、時に厳しく時に優しく私に接してくれたメアリは、早くにお母様を亡くした私にとっては母同然だった。そんなメアリが後悔の念に潰されそうになっているのを見ると、こちらも心が痛い。メアリが後悔するような事なんて一つもないのに。
「大丈夫、だってゲイル様は鳥を飼うのを許してくれたもの」
鶏肉が好きという盛大な誤解を解いた後、ペットの鳥を飼っても良いか聞くと、あっさりと許可された。「その程度の事、好きにするといい」と。私にとっては全然『その程度』の事ではないのだが……しかし、これさえ許可されるのなら後はどうでもいい。私にとっては鳥が全て。ゲイル様がどれ程怖く恐ろしい人であろうとも、鳥がいれば耐えられる。私はこの世に転生して生まれた時に、鳥だけを愛して生きると決めたのだから。
「浮ついた噂一つないのに、出会った瞬間に口付ける程お嬢様に執着しているだなんて、何か裏がありそうで恐ろしい。お嬢様は年の割に幼い印象を受ける事で一部界隈では有名ですから、もしやそちらの分類の人なのでは……」
つまり、前世の言葉を使うなら「ロリコンなのではないか」と言いたいのだろう。およそ150センチ程しかない身長に、童顔で胸も小さい私は……酷いと14歳程に間違えられる事もある。赤褐色の長い髪はいくら大人っぽく結い上げようが、どうしても実年齢より下に見られてしまう。
贅沢を言うならば、前世の本屋で異世界小説本の表紙を飾っていたような、金髪碧眼でメリハリのあるスタイル抜群の美人に転生したかった。現実は真反対である。
「それでも構わないわ、鳥さえ飼えるのであれば」
「本当にお嬢様は昔から寝ても覚めても鳥ばかりで……だからこそ、お優しい方と恋に落ちて、心から幸せな結婚をして、笑って巣立って行って欲しかった」
ポロポロとメアリの目から涙が溢れる。……泣いている所なんて久しぶりに見た。「私、そんなに鳥の事ばかり言っているかしら?」と思いつつ、心当たりがありすぎて苦笑いしながら隣に座るメアリを抱きしめる。
「私、幸せよ? 望んでくれた方の元へ嫁いで、大好きな鳥と一緒に暮らすのだから」
両者ともに望まない結婚をするのも当たり前なこの世界の貴族達。前世のように恋愛結婚が主流ではなく、家同士の繋がりや政略から決められる事が大半な事を考えると、理由は何であれ望まれた私はきっと幸せなのだ。
「こんな時ばかり大人びた返事をしなくても良いのですよ。……嫌いな刺繍の時間は、途中で子供のように逃げ出してしまわれるのに」
「だってお裁縫は嫌いなんだもの。あ、ゲイル様はお裁縫なんて出来なくてもいいと言ってくれたわ! 明日からお裁縫の時間は無くしましょう?」
苦手な事は何かと聴取された際に正直に白状すると、そんな事気にしなくていいと言ってくれた。誰しも苦手な事はある、得意な物を伸ばせば良いと。ゲイル様のおかげでお裁縫から逃げる理由が出来たので、それだけでも幸せかも知れない。
そうやって自分自身に言い聞かせるようにして……自分は幸せなのだと、己の心に刷り込んでいった。
次回はモフ回です(〃ω〃)
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