鳥籠の外(6)
「君達、レディーを困らせてどうする」
困っていた私の手を後ろから誰かが引っ張り、輪の中から壁際の方まで連れ出された。一瞬ゲイル様かと思ったが声も体型も全然違う。
「こんばんは鳥籠姫。やっと来てくれた」
漆黒の髪に、特徴的なルビーのような瞳。先程お見かけした侯爵様を若返らせて中性的にしたような……男性だった。助けていただいたお礼を言わなければと思ったのに、こちらを見つめる視線がどうにもねっとりと粘度が高いように思えて……つい表情が固まってしまう。一難去ってまた一難とはまさにこの事……!
「ずっと、ずーっと。再びお会いできる日を待っていたのですよ?」
「は、はは……そうだったのですね」
再びと言われましても、全くもって記憶に無い。それを誤魔化すように乾いた笑い声を出す。……どうしよう、社交って難しすぎる! もう話題は鳥の事限定とかにして欲しい!! つい心の中で叫んでしまう。
「この時の為に何年も小鳥の部屋まで作って待っていたのに。セキセイインコにヨウム、マメルリハ……他にも沢山飼っています。是非見ていただけませんか?」
「鳥!?」
まるで心を読まれているかのような話題提供に思わず前のめりになってしまった。男性でも鳥を飼うのが趣味なお方もいらっしゃるのね! しかもいろんな種類を飼っていらっしゃるなんて、相当な鳥好きだろう! 社交中に鳥好きの同志と巡り会えるなんてラッキーだ。
「ええ、ライラックのセキセイインコなど、珍しいカラーの子もいますよ。見たいですよね? 気になりますよね?」
「はい!!」
思わず食いつく私。紫色のセキセイインコなんて、金額にすればかなり高価!
「ずっと貴女と話したくて待っていたんです……一緒に行きましょう? この屋敷内ですから、心配しなくとも大丈夫ですよ。すぐに着きますから。」
手を握られ腰に手を回される。初対面では有り得ない距離の詰められかたにゾワリと鳥肌が立った。……あれ? やっぱりこの人、鳥好きとは言え変な人な気がする。
「えっと、やっぱり結構です。婚約者が待っていますから」
『絶対に勝手に歩き回ってはいけない』
無断で白鳥を追いかけ消えた前例がある私に、夜会前しつこいくらいゲイル様が注意し約束させられた言葉。消えた上に体調不良で倒れた私を見たゲイル様の……あの悲痛な顔を思いだせば、その約束を破るなんて出来なかった。
ロバート様にも、知らない人について行かないと教育されたばかりだし、鳥は……物っ凄く魅力的だが、お断りする。
「あぁクレセント伯爵ですか。彼はもう帰ってこないと思いますよ?」
ワルツを踊る時のように体を寄せられる。いくら場慣れしていないとは言え、流石にこの距離感がおかしい事くらいは理解できる!
「……私は何も聞いておりませんので、ここでお待ちしています」
そう返事をしつつ内心焦りながら周りに視線を向けた。しかし壁際に連れてこられてしまったせいか、こちらを気にして見ているような人は居ない。
男性としては平均的な身長だし細身なお方だが、それでも小柄な私にとってはかなりの体格差があって。こうも覆い被さるように詰められてしまえば……恐怖心で体が震える。
「そう言わずに私とも仲良くしてください。ほら、見て?」
そう言いながらジャケットの内ポケットから出してきたのは……ぐったりとした文鳥。
「──ちょっと!?」
咄嗟にその手から文鳥を奪い取って様子を確認するが、すでに息は無かった。小さな足はあらぬ方向に曲げられており、通常ではあり得ない扱いをされていたのではと、容易に想像がつく。
「なんで……こんな事……」
「勿論、貴女に見せたくて持ってきたのですよ。可愛いでしょう? 小さくて可愛くて餌をねだって擦り寄ってきて私を愛してくれる。私に抵抗する力も持たない彼らの生が、私の行動1つにかかっているのだと思うと、酷く興奮する」
カッと頭に血が上る。ペットは家族だ。その小さな命をそんな風に扱うだなんて許せない!!
「おや、ご理解いただけないかな? 無意味な抵抗、潰える前の一瞬の命の輝きの激しさ、無になる瞬間。可愛く儚い存在の命が私の手の内にあるのだと思うと、興奮を抑えきれない。まさに至福の時。更に無になってすら、その姿は心を揺さぶる程愛らしい。ね? その文鳥可愛いでしょう?」
本能で分かる。──この人危ない人だ。ただの鳥好きな人じゃない。
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