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もう限界(1)

「頼むメアリ、本当に禁断症状が起こりそうなんだ!」

「生憎ロバート様から、クレセント伯爵をアルエットお嬢様の部屋に立ち入らせるなとのご命令が。申し訳ございません」


 その日の夜。全然申し訳ないと思っていない風のメアリに、私の部屋への入室をお断りされてしまうゲイル様。

 リミットブレイクの心配をしたが杞憂だった。だって、今まで私とゲイル様の関係を微笑ましく眺めるだけだったメアリ以外の使用人達が、まるで人が変わったかのように帰宅したゲイル様と私の身体的接触を阻止してくるのだから。ブレイクするにも、しようがない。

 他にも、ロバート様は抜かりなく、私の部屋の窓も全て開かないよう木材で目貼りした。流石頭脳派……息子が鳥の姿で窓から出入りしていたのをよく分かっていらっしゃる。そのせいで月明かりすら全く入らなくなり部屋が暗い。眠れない夜は、歌を口ずさみながら月明かりを見上げて過ごす事も多い私にとって、大迷惑な話だ。


「この屋敷の主人である伯爵は私なのだが、その命令でも駄目だと?」

「申し訳ございません。ロバート様がいらっしゃる時はそちらの命令が優先と指導されましたので。さらに、私の主人はまだカメリア子爵です。給与も子爵から頂いております」


 1ミリも申し訳なく思っていなさそうなメアリに言い負かされるゲイル様。


「……クソッ。どうして自分の屋敷内にいる婚約者に触れることすら許されないんだ!」


 明らかに苛立っている! このまま睨み殺されるんじゃないかと思う程、室内にいる私を睨みつけてくるので……ある意味命の危険を感じた。


「あの、ゲイル様。決して私が嫌がっている訳ではないのです。覚悟を決める時間を与える為にも我慢させた方が良いと、ロバート様が仰るので……」


 だから必要以上に私を睨まないでください! 怖くて本気で涙が出そうなので、お願いします!


「父上め……こんな事になるなら呼ばずに領地に引き籠らせておけばよかった。アルエットと触れ合う瞬間だけが、この殺伐とした生活の癒しだというのに!」


 腰に下げた剣に手を伸ばしつつ、踵を返し部屋の前から立ち去っていく。いつも屋敷内では帯剣していないのに珍しい……って、ちょっと待った!?


「ゲイル様!? 早まっちゃ駄目、お待ちください!!」


 気がつくとメアリを押しのけて廊下に飛び出していた私。お願いだから屋敷内で傷害事件はやめてください!! カメリアの二の舞は辞めて!?


 ズンズンと歩いていく背中を追いかけ走って、軍服の背中を捕まえる。武神は歩幅が大きく歩くスピードも速い為、私は全力で走らなければ追いつけない。


「お願いですから待ってください!」


 振り返り、私の体を捉え空中に掲げあげたゲイル様の両手には、勿論剣は握られていなくて。あれ? と思いつつ腰の鞘とゲイル様の顔を交互に見る。


「何を不思議そうな顔をしている」


 だって、先程剣を抜こうとしていませんでしたか? と言いかけて辞める。もしかして……


「……私を部屋から誘き出す策ですか?」

「当然。父上に斬りかかる訳ないだろう」


 ──はい、また策に嵌められたのですね? 


「フッ、単純に引っかかってくれるのは可愛らしいが、こういう所こそ学習すればどうだ? こんなに純粋では逆に心配になってしまう」

「確かに。たかがゲイル如きに嵌められるようでは心配にもなる。領地の勉強と同時にそちらも学習するべきだな」


 突然後方から現れるロバート様。相変わらず息子の貶し具合が凄い。


「ゲイル、覚悟が出来るまでは禁止だと言ったはずだが?」


 腕組みしたその姿は、ゲイル様と違って圧迫感は無いが、それでも元伯爵、元領主らしく威厳が漂う。そしてこちらに冷ややかな視線を送るその目元は、ゲイル様に似て鋭い。私を睨んでいるわけでは無いのに、心臓がキューッと音を立てて縮こまる。


「父上、覚悟なら以前から出来ている」

「……ほう? 朝の時点では、その子を殺してしまう覚悟は出来ていないように見えたが?」


 両手で掲げあげられていた私は肩の上に座るような形に抱き直される。高所恐怖症ではないけれども、190cm以上ある人の肩の高さなので流石に怖くて、逆側の肩にしがみつくように手を伸ばした。


「私はアルエットを絶対に殺さない。必ず一緒に幸せになってみせる。という覚悟を改めてしたまでだ。」


 ──また君に出会えたら、今度こそ……一緒に幸せになりたい


 前世で最後に言われた言葉を思い出す。ゲイル様は前世の記憶がないはずなのに、それでも『一緒に』幸せになると言ってくれる。それが……前世の私と、アルエットとしての私、二人分の嬉しさとなって心に降り積もる。こんなにも速いスピードで『大好きの気持ち』が積もってしまったら、次の春までに私はこの気持ちに埋もれて動けなくなってしまうのではないだろうか?


「フッ、そう来たか。脳まで筋肉なのは相変わらずだな」


 ロバート様は微かに笑った後、ハァとこちらにまで聞こえる大きな溜息を一つ吐いて。


「いいだろう。そこまで言うのであれば、やってみればいい。私は親として、……経験者として、注意は促した」

「アルエット、お許しが出たぞ。もう堂々と触れてもいいな?」


 もう触れているではないですか、とは突っ込めなかった。ロバート様が自らを『経験者』と言ったのが気に掛かったから。……まるで、自分の為に死んでしまった大切な人が居たかのような言い方だった。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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