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最早脅し

 私の初めてのキスは、目を閉じる余裕すら無く……。恐怖や緊張、驚きや戸惑いと……少しの胸の高鳴りで、思考回路はショート寸前に追い込まれていた。



 軽々と片手で掲げ上げるようにして抱かれ、庭から屋敷内のテラスに連れて来られた私。すれ違う伯爵家の使用人達は恭しく礼をしてくれるのだが……微笑ましいものを見るような目を隠しきれていない。とにかく恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


「お願いですから、降ろしてくださいませんか? 色々と一杯一杯で倒れそうです……」

「駄目だ。倒れそうな状態なら尚更却下する」


 ショート寸前の頭で必死に考えお願いしたのに、即却下されてしまう。


(誰か、このお方を止めてください!)


 ◇


「ああ……アルエットお嬢様! よくご無事で!」


 先にテラスで待機していたメアリが駆け寄ってくる。抱き上げられたこの高さからだと、平均身長程のメアリが小柄に見えてしまう。普段目を釣り上げて私を怒ってくる彼女の怒りの矛先は、今日は私ではないようだ。


「失礼を承知で申し上げますが、クレセント伯爵。初対面で、まだ婚約者でもないレディーに口付けるなんて非常識です! そんなお方に、私が大切に守ってきたお嬢様をお任せするなんて、出来ません!」

「え!? 見、見られていたなんてっ」


 慌ててテラスから見える庭の範囲を確認すると……やはり先程の椿が見える。自分を昔からよく知っている人にそういう場面を見られてしまったのが恥ずかしい上に気まずくて、思わず口元を両手で覆った。


「主人思いなのだな。しかし私はアルエットを離す気は無く、できる事なら明日にでも結婚したいくらいに想っている。守る役目は夫となる私に譲ってもらいたいものだ」


 絶句するメアリ。今の私には彼女の気持ちが良くわかる。


(そうよね、この急展開には普通ついていけないわよね? いっそ夢だと思いたいわ)


「流石に明日、は現実的には無理ですな。少なくともアルエット様が結婚できる十八歳になるまでは、婚約者で我慢していただかないと」

「セバス、わざわざ言わなくともそれくらい分かっている。明日、正式な婚約として国に届け出るから。……勿論、カメリア子爵のサインは頂いている」


 私とメアリの視線に気が付いたのか、すでにお父様のサインがある届けを……セバスが広げて見せてくれる。流れるような美しいその文字は、間違いなくお父様のサインだ。という事は、お父様は娘の意思関係無しでサインしたのだろう。


「ああ……旦那様は一体いくらお金を積まれてお嬢様を!」


 膝から崩れ落ち、両手で顔を覆うメアリ。思考回路があらぬ方向に爆走している気がする。


(メアリ。それは流石にゲイル様に失礼な気がするわ)


 先程私に見せた鋭い視線でメアリの事も睨みつけるのではないかと思い、ハラハラした気持ちでゲイル様とメアリを交互に見やる。


「通常より少し多い金額の結納金しか渡していない。……アルエットを頂けないのであれば軍を辞すつもりだ、とは言ったが」


 ただの非常時の指揮官補佐でしかない子爵の返事一つで武神が軍を辞してしまうというのなら……断れる訳がない。金を積んで買う方がマシかもしれないし、それなら娘の意思関係なくサインするのは納得がいく。私がお父様でも、きっとそうしただろう。


「脅しでお嬢様を得ようとするだなんて……」

「脅しではなく、それ程までに欲しているのだという意味で言ったまでだ」


 そうメアリに説明しつつお茶の準備が整えられたテーブルに近づいて椅子を引き、そこに私を下ろすゲイル様。その手つきや行動は、見た目に反して優しく穏やかだ。そして私の足元に跪き、手を取る。

 ……顔から受ける印象と、動作から受ける印象が異なりすぎて戸惑ってしまう。


「ではアルエット、お茶にしよう。茶葉はどこの産地が好きなんだ? 食べ物の好みは? 次から好きな物を用意したいから、アルエットのことを沢山教えて欲しい。何が好きなんだ?」

「鳥が好きです!!」


 勢いよく答えた後に気がつく。食べ物の話であったと。「何が好きなんだ?」の部分に過剰反応してしまった。


「では食事を出す時は鶏肉料理にしよう。他には?」

「あの、違うんです。鳥は鳥でも鶏ではなくって」

「失礼した、鴨だろうか? それとも七面鳥? 味付けはどのようにするのが好みなのだろうか? 私はシンプルに塩胡椒で味付けしたものが好きだが」


 この後誤解を解くまでにそこそこの時間を要した。


(小柄な鳥好き令嬢と大柄で怖い武神伯爵、崩れ落ち放心中の侍女にその光景を微笑ましい顔で眺めてくる執事……絵面が酷いと思ったのは私だけかしら)


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初からワクワクしながら読ませて頂いてます。 六ページの「鳥が好き」のくだり爆笑です。 楽しい物語をありがとうございます。
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