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傷害事件(2)

「アルエット、できる限り身を低くして姿を隠して。こっそりね」


 花の収穫は双子の妹と長女のヴィオレットお姉様に任せ急いで屋敷に戻ると、門の前で次女の「リラ」お姉様が待ち構えていた。お父様とゲイル様は玄関を入ってすぐの広間に居るらしいので、使用人達が使う裏口に誘導されそこから屋敷内に入る。

 念のために子爵家の私兵は広間から私の部屋がある2階へ続く階段を閉鎖するように待機し、私の部屋の前にも配置されているようだ。勿論部屋の中に私は居ないのでその兵はダミー。武神相手に子爵家の私兵なんて無意味。ならば目眩しとして使った方が有効だ。


 私は、お父様の命が危ないという時までは、使用人達が普段使っている屋根裏部屋に隠される予定になっているらしい。心配そうに広間を見つめるギャラリーという設定で配置された使用人達を壁にして、広間の隅に設置されている使用人用の階段を身を低くして這うように登っていく。


「何を言われようともアルエットはお会いできません。お引き取りを」

「だから、その会えない理由を聞いている!!」


 声だけで分かってしまう。……お怒りだ。今まで聴いた中で一番怒っている声だ。顔を見なくともその様子が想像できてしまい、背筋が凍る。その顔面を見てしまえば怖さだけで心臓が止まるかもしれない。お父様は大丈夫なのだろうか。


「理由は申し上げたはずなのですが。手紙はお読みいだだけましたか? どうかあの子の願いを聞き届けてやってください。勿論結納金など頂いた物は全て御返しいたしますし、なんなら謝罪として倍にして御返しいたします。それで許していただけませんか?」

「あんな理由で納得できるわけがないだろう! しかもあれは全てアルエットに贈った物、金なんて要らないからとにかくアルエットと話をさせろ」


 使用人達の足の間からチラリと見えてしまう、お父様とゲイル様が言い合う光景。言い合うというか、のらりくらりとかわし続けるお父様相手にゲイル様が怒っているだけなのだが。先日お父様が冗談のように鬼扱いしていたけど、鬼どころか般若かもしれない程の形相でお怒りで……つい階段に足を引っ掛けてしまった。


「きゃぁ……ッ」


 咄嗟にしまったと思い声を抑えたが高い声はよく響く。ゲイル様がこちらに視線を向けてしまった。きっと向こうから私の姿は見えていないだろうけど、それでも刺すような視線は私を突き刺して動けなくする。早贄にされた餌のように。


 ドンッ!ガラガラガシャーンッ!!


「キャッ!!も、申し訳ございません!ねずみがいて……」


 階段下にいた使用人の少女の一人が機転を利かせ、誤魔化すため即座にモップやバケツなどを盛大にひっくり返してくれたらしい。私に近い高い声の彼女は、きっと自分がゲイル様の怒りの標的になるのを覚悟で行動してくれたのだろう。


「申し訳ございません、お許しください!」


 少女の隣に立っていた料理長の男性も少女と一緒に頭を下げて謝る。彼らの覚悟を無駄にしないためにも、ゲイル様の視線が彼らに移ったのを確認して、階段を急いで登り切った。




 登り切った先の部屋には何人かの使用人が待機していて、私を守るように取り囲む。ここなら怒鳴り声も聞き取れない程度にしか聞こえてこない。本当にお父様が危なくなったら階段下に使用人に紛れて潜んでいる次女のリラお姉様が合図を送ってくれることになっているらしく、合図が出るまではここで待機だそうだ。


「メアリは?」


 てっきりここで合流するとばかり思っていた自分の専属侍女の姿が無く、あたりをキョロキョロと見渡してしまう。


「メアリは、丁度お嬢様の部屋にいた時にこの騒ぎが起こりましてね。お嬢様が部屋にいると思い込ませる為にも動かす事が出来なかったのです」


 なるほど、メアリも目眩しの為に使われているのか。そう納得して少し時間が経った頃だった。



 ピイィィイィイイーッ!!



 ずっと言い争っているらしい声が聞こえていたが、突然階下から激しいモモの鳴き声が響いてくる。何が起こっているのか分からず使用人達と顔を見合わせた。


「屋敷内にいるのは分かっている! モモを殺されたくなければ今すぐに出てこい!!」


 まさかの怒号が聞こえてきて思わず衝動的に階段を降りて行きそうになるが、使用人達に引き止められてしまう。


「お願い離して、モモが!」

「出ていけばお嬢様が殺されてしまうかもしれませんよ!?」

「我々は命に替えてでも、奥様の形見であるお嬢様を守りたいのです! どうかここは耐えてください!!」


 彼らの言葉を飲んで必死に耐える。大丈夫、きっとこれは脅しだ。本当に殺したりするわけ無い。大丈夫、きっと大丈夫……まだ鳴き声が聞こえるもの。ゲイル様がそんな事するわけない。

 自分に言い聞かせるように、呪文のように大丈夫を唱える。


 しかし、現実は残酷で。モモの声はピタリと止んだ。それを合図に、私の体は使用人達を振り解き階段を駆け降りていた。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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