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早贄の餌(1)

 クレセント領は王都まで馬車で三日もかかる距離にあるため、クレセント辺境伯家は王都にも屋敷を持っている。クレセント辺境伯自身も王都にある軍での仕事があるので、普段は王都で暮らしているらしい。その屋敷で顔合わせの為のお茶会をするというので、私はカメリア領から王都へ出向くことになった。


(……折角辺境の地の珍しい鳥が拝めると思ったのに、残念)


カメリア領は王都に近く、馬車で数時間で着く。そのため午後のお茶会に合わせ領を出発した。



「アルエットお嬢様、もう無理だと思ったらお断りするのですよ。いいですね? ……聞いておりますか?」


 馬車で正面に座ったメアリは、私を気遣っているのか、ずっと上手な断り方を享受してくれてる。

 そんな事よりも、馬車に乗っている間は滅多に見られない景色を背景に鳥を観察するチャンスである。対象が辺境の珍しい鳥でなくとも、バードウォッチングは私の至福の時間なのだ。邪魔しないで欲しい。


「ワカリマシタ。ハイ」


 まるでオカメインコのボタンが話しているかのような片言の言葉で返事をしながら、適当に聞き流す。


「あ! あの正面から飛んで来ている白い鳥は何かしら? よく見えない……双眼鏡持ってくればよかった」

「お嬢様、いい加減にしてくださいね?」


 ◇


 お小言を聞き流しながらのバードウォッチングタイムを満喫していれば、王都へはすぐに到着してしまった。もう着いてしまったのかと思いながら馬車を降り、クレセント辺境伯邸を見上げる。カメリア子爵家とは全く違う、仰々しさのある外観。厳格な雰囲気漂う屋敷は、私に対して「場違いですよ」と告げているように思える。


 先程まで鳥一色で幸せだった脳内に、結婚という嫌なワードが飛び込んできて、馬車から降り立った所からなかなか足が進まない。もしも……趣味を否定されてしまったら、私はどうすればいいのだろうか。正直そんな人とは結婚したくない。しかしこんな私に結婚を申し込んでくれる辺境伯様なんて、なかなかいらっしゃらないだろう。ならば三女である私は、贅沢言わずにお受けした方がきっと子爵家の為になる。


「アルエット・カメリア子爵令嬢様でございますね? そろそろ到着されるはずだとゲイル様が」


 キイッと金属音がして門が開く。現れたのは高齢の執事が一人。出迎えにきてくれたのだろうか?


「申し訳ございませんが、お嬢様は馬車で体調を悪くしてしまったようでして。このような体調で辺境伯様にお会いする訳には……。お嬢様、本日は帰りましょう?」


 足が止まってしまった私を見て、この結婚に反対しているメアリが第一投を投げ込む。終わってしまうかもしれない大好きな鳥との生活を思い足が竦んでいただけなのに、大いに勘違いされているようだ。


「確かに顔色がよろしく無いようですな。ではこちらの屋敷で体調が良くなるまで休んでください。こんな可愛らしい御令嬢を体調の悪いまま馬車に乗せて帰したとゲイル様に知られたら、私が処罰されてしまいます」

「処罰……!?」

 

 高齢の執事は、眼鏡のせいかフクロウのような印象だった。それが私のせいで処罰されるなんて絶対に嫌だ。

 私の頭の中でこの執事は、すっかりフクロウとして位置付けられてしまった。


「あの……休まなければらならいほど体調が悪い訳ではなくて……」


 メアリに話は合わせないといけないが、このおじいちゃん執事が処分されるわけにはいかない。

 どう取り繕うかと考えていたその時だった。ふわっと膝の裏を抱えられるようにして体が浮いた。お気に入りの薄オレンジ色のドレスの裾が舞う。


「お嬢様!?」


 突然の事に全く脳の処理が追いついていない私。驚いたような悲鳴をあげるメアリに対して、私は悲鳴を上げる余裕すら無い。


「おや、ゲイル坊っちゃま自らお出迎えですか?」

「セバス、人前でその呼び方はやめろと言っただろう。……体調が悪いと聞いたが、大丈夫か?」


 私を軽々と持ち上げているのは逞しい大柄の男性。その髪は太陽の光を受けて輝く珍しい銀色だった。無造作で襟足だけ少し長めの髪型が若干鳥の羽毛や尾に見えなくもないが、確かに雄々しくて鳥らしさは無く……いや、あえて言うなら睨みつけるようなキリッとした目が鷹のような印象を受ける。正直に言うと、顔付きが怖い。体格も相まって、全体的に怖い。


(という事はこの人が、私を婚約者にしたいと申し出てくれた辺境伯様?)


「返事も出来ない程体調が悪いなんて……セバス大変だ。直ぐに客室に運んで医師を!」

「畏まりました、直ちに手配して参ります」


 その恐ろしい表情のまま、セバスと呼ばれた執事に対し命令する男性。会話を聞いた所、やはりこのお方が辺境伯様のようだ。


「待ってください! あの、窓から鳥を見すぎて酔っただけです。馬車酔いなのでお気になさらず」


 なんだか大事にされそうだったので、私は慌てて誤魔化した。顔の前で手を横に振るが、心配されているのか降ろしてもらえる気配はない。ぷらぷらした足先が心細いく、知らない男性に抱き上げられているという状況に、体を固く縮こませる。


「馬車酔いか。では外の空気を吸える方がいいだろう。セバス、予定していた応接室ではなくテラスにお茶の用意を。風に当たらせる為に庭を一周してから向かう」

「畏まりました。そちらのお付きの方は先に屋敷内へどうぞ。御令嬢の好みのお茶をご用意したいので、ご教授いただけると大変ありがたく……」


 大男に抱き上げられた私を心配そうに見上げていたメアリは、セバスに引き止められてしまう。


「……アルエットお嬢様、何かありましたら大声で人を呼ぶのですよ。いいですね?」


(メアリ、それ辺境伯様に失礼じゃない?)


 大丈夫よ、の意味を込めて取り繕った笑顔で頷く。心配性だなぁとは思ったが、出会った直後の男性とこの状況下で二人っきりになるのは大変心細い。鳥がお友達の私はほぼ異性と接した経験も無く、こんな時の対応の仕方もよく分からなかった。


(初っ端からこんな事になるのなら、馬車の中でもうちょっと真剣にメアリの話をおくべきだったわ)

本日は 早贄の餌(2)まで更新します。(2)はさっそくいちゃいちゃします!

明日からは20時更新です♡


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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