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紙1枚で(1)

 私の処遇に関しての国の決定はなかなか降りて来ず、お父様が国に報告をあげてからもう一週間が経ってしまった。あれほど弱り切っていた体も流石にかなり回復してきて、室内であれば以前と変わらず動き回れるようになってきた。



「モモ、ボタン、遊びにきたよ」


 留め置かれている客間の隣の部屋に、贅沢にも鳥とメアリが生活する部屋まで貸してくれたクレセント伯爵家。弱った鳥類に生命力を分け与えるという能力が発覚してしまったため、私に触れ合う鳥類は事前にメアリによって隈なく健康チェックをされることとなった。と言っても小鳥は体調の悪さを隠す生き物なので、チェックで異変を見つけるのは難しいのだけど……それでもメアリは鳥の本を大量に仕入れてきて勉強してくれる。私の命を減らさない為に。私の為にそこまでしてくれるだなんて、本当にメアリが私の侍女で良かった。


「ナデナデ、ナデナデ」

「ピィイイィーッ!!」


 声をかけた瞬間激しくなる鳴き声。2匹が求めるがまま同室でずっと甘やかしてあげたいのだが、能力のせいでそうもいかなくなった。……正直我が子のように可愛がってきたこの子達の為なら死んでもいいのだけど。仮にこの子達が病気になったとしても、私の命で助かるのなら、安いものだ。


「アルエットお嬢様、こちらの屋敷から出たいと仰っていた件で旦那様がお見えになっております」

「久しぶりだねアルエット」


 メアリと一緒にお父様が部屋に入ってくる。それと同時に異変を感じたモモが大声で騒ぎ出し、ボタンもソワソワし始める。


「タスケテ〜。ユウカイ、サレル〜」

「ちょっとボタン! モモも静かにして? 大丈夫、お父様よ」


 騒ぐ2匹を急いで鳥籠に仕舞い、鳥達はメアリに任せてお父様の背を押し廊下に出る。


「あの鳥達は相変わらずだな。アルエットも……能力で生命力を使い果たして寝込んだと聞いて心配したが、元気になったようで良かった。」

「クレセント伯爵とお屋敷の皆様のおかげで無事元気になりました。立ち話もなんですから、私がお借りしている部屋にどうぞ」


 そう言いつつ部屋に招き入れ、向かい合ってソファーに腰掛ける。お父様は顎に手を当てて何かを考えるようにグルッと辺りを見渡し「へぇ」と呟いた。


「どうかなさいましたか?」

「こちらの部屋をアルエットはお借りしているのかい?」

「はい。有難いことにお隣の部屋までメアリと鳥達の為に貸していただいて」


 1泊の予定だったのにもう何日もお世話になってしまっている。初めは見慣れなかったツバメ柄の壁紙も目に馴染んでしまった。


「当初急な予定変更で泊まる事になったとメアリから報告を受けているのだけど、随分とアルエット向きな部屋だね? このソファーの布やあそこのカーテンの色もアルエットが好きなオレンジ色に近い茶色だし。壁紙なんて随分と露骨だ」


 深く考えなかったが言われてみればそうだ。暖色系で部屋のイメージをまとめてあるなとは感じたが、確かにオレンジ色が多い。


「まさかお父様に隠れてあらかじめお泊まり計画でも立てていたのかい?」

「ち、違います!!」


 意味深な笑みを向けられて慌てて否定する。本当に偶然でそんなコソコソした計画なんて何も無かった!!


「本当に? 一日に何回も伯爵自ら看病に部屋を訪れていたと聞いたよ。徹底して人払いされていたようだし、お父様に言えない様な事をしていたんじゃ? ……例えば、婚前には相応しく無いような」

「う……違うの!! クレセント伯爵は本当に看病しに来てくれていて……!!」


 散々薬を口移しされた件は誰にも言っていないはずなのに、お父様には全てお見通しな気がして……笑みが怖い。全然目が笑っていない!


「ははっ……冗談だよ。それよりも、この伯爵家を出たいとメアリから聞いたけど?」


 ……全く冗談に聞こえなかった。


「はい。もう長い間お世話になっていますから申し訳なくて。これ以上ご迷惑をかけたくないのです」


 嘘はついてない。もうかなり元気になったし、病人のように部屋に篭って静養する必要は無いはずだ。それなのに、庭に少し出て散歩する程度しか許してもらえない。どうやら屋敷の主人に似て、使用人達も心配性のようだ。


「それに、確かクレセント伯爵のことは『ゲイル様』とお呼びしていなかったかな?急に他人行儀な呼び名に変えたんだね。喧嘩でもしたかな?」


 本当に、お父様には全てお見通しな気がしてきて……怖い。


「……短命な令嬢はお嫌いでしょうから。それよりお父様、私への結納金は今どうなっていますか?」

「どうって言われても、全く手を付けていないよ」

「では全部そのままにしておいてください。きっと婚約破棄されると思いますから、その時は投げつけるようにして伯爵家にお返しして下さいな」


 結構びっくり発言をしたつもりだったのに、まるで予想していたかのように笑みを崩さないお父様。昔から飄々として掴みどころがない人ではあったが、ここまでとは思わなかった。


「破棄ねぇ……アルエットは何か辛い事をされたのかな? お父様は頼りないかもしれないけれども、大切な娘達を守るためなら格下のこちらから婚約破棄を申し出るくらいお安い御用だよ。何が嫌だったのか言ってごらん?」


 辛い事なんて何もされていない。なのに、お父様に優しく言われると、外見だけじゃなくて中身までお子様になってしまったかのように涙が浮かんでしまう。何もかも見透かされているような気持ちになる。


「アルエット、泣く程悲しかったんだろう? そこまで我慢する前にどうしてお父様に頼らなかったんだ」

「だって……クレセント伯爵は何も悪くないもの」


 手首の内側で涙を拭いながら答える。私が勝手に悲しくなってしまっただけだ。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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