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筋骨隆々

 小柄で赤褐色の髪に黒い瞳という、至って平凡な容姿をした子爵令嬢である私。しかも不器用で花嫁修行もままならない私の元に、まさかの人物から婚約の申し込みがやってきた。カメリア子爵家の応接室で、侍女のメアリと四人の姉妹達、合わせて六人の女たちで頭を突き合わせるようにして、お父様から受け取った婚約の申し込みに関する手紙を確認する。


「クレセント……辺境伯?」


 お相手の名前はゲイル・クレセント辺境伯。昨年終結した隣国との争いで、辺境伯という爵位のある身でありながら軍に属し戦い、大きな武勲を挙げた人。珍しい銀色の髪を持ち、その剣の腕から武神と評されるほどのお方だ。


(鳥に夢中で世の中に疎い私でも、名前くらいは知っているわ。……名前以上は知らないけど)


 今朝朝食を食べていると、神妙な顔をしたお父様から「目を通しておきなさい」とこの手紙を手渡された。

 普段はお父様は子爵として領地の活性化に精を出しているが、非常時に限り軍で指揮官補佐として仕事をしている、大変頭の切れる人だ。そんなお父様が神妙な顔をしつつも手紙を私に手渡してくれるということは、決して悪い話ではないのだろう。しかし、何故会ったこともない辺境伯様から、婚約の申込みが来るのだろうか。


 私は異世界転生の物語ではお決まりな、眉目秀麗の美男子を思い浮かべた。男性の容姿に特にこだわりは無いが、鳥だけを愛して生きるつもりの私は、愛人が沢山いそうな美男子の方が都合が良い。


「アルエットお嬢様、お断りしましょう」


 しかしそんな私の考えとは逆に、メアリはズバッと申し込みを切り捨てようとする。専属侍女の言葉に、姉妹達も頷きながら同意した。


「そうよ、小動物系のアルエットなんて食べられちゃうわ! 一口でペロリの餌よ、餌!」

「……とても大柄な人らしいよ。並ぶと少女と野獣になっちゃう」

「アルエット姉様は、もっと優しそうな人に嫁ぐべきじゃない? こんな熊みたいな人ではなくて、白鳥みたいな感じの」

「そうそう。噂が本当なら、亭主関白系で筋骨隆々、無骨そうな辺境伯様は……正直アルエットの好みと真逆ではなくて? お父様に言ってお断りしてもらいましょう?」


 二人の姉と双子の妹達は、口を揃えたかのようにこの婚約話に反対する。

 ここまで言われてしまうと、むしろ伯爵様が可哀想に思えてきてしまった。


 (大きな武勲を挙げた、素晴らしい方なのに……それでカバー出来ないほど大変な見た目をしたお方なの? 逆にそれ程大変な見た目なのであれば、私が少々鳥に傾倒していても許してくださる気もするのだけど)


「みんな揃って大反対するような見た目のお方なの?」

「お嬢様は鳥しか見ていないのでご存知ないかもしれませんが、泣く子も黙ると言われる程の恐ろしいお方だとの噂ですよ。睨まれるだけで心臓が止まってしまうとか」


 若干メアリの言葉が皮肉めいていたように感じたが、ひとまずここはスルーする。睨むだけで相手の心臓を止めることが出来るのであれば、戦時には大活躍であろう。本当であれば無双兵器だ。


「ちなみにクレセント領はどの辺りにあるのかしら? 辺境伯様が治めるような土地なら、王都から近いカメリア領からは遠くなりそう」

「お姉様ったら、鳥には詳しいのに、地理は全然知らないのね。クレセント領はここから馬車で三日もかかる田舎なのよ。土地は広いけど、遊ぶ場所なんてろくに無いそうよ」

「じゃあ、野鳥もいっぱいいるかしら?」


 妹にまで皮肉めいたことを言われるが、田舎なら王都に近いこちらでは見られない珍しい鳥がいる可能性が高い。


(鳥が娯楽の私にとっては天国かもしれないわ)


 辺境伯様が私の趣味を許してくださるお方ならば、一考する価値はある。そもそも爵位がこちらの方が格下なので、基本お断りするなんてもっての外ではあるのだが。

 勿論、鳥を飼うのを禁止してくるようなお方なら、間髪入れずにお断りするだけの覚悟はある。


 姉妹達+メアリに「また鳥か……」という顔で見られるが、まずはお会いしてみないと分からない。だから私は一週間後にセッティングされた顔合わせのお茶会に出向くことになった。


「アルエットの好みはともかく、クレセント伯爵はどうしてアルエットに婚約を申し込んできたのかしら? 長女次女をすっ飛ばして三女のアルエットをという事は、カメリア子爵家と繋がりが欲しいわけでもないようだし」

「……武神も癒しが欲しいのではなくって? もしくは、年下趣味。アルエット姉様は自覚無いけど、あれでもそういう気質の人にはモテモテだし。先日もお父様が怪しい趣味をした方からの手紙を燃やしていたわよ」

「何故かアルエット姉様だけ小柄だからねぇ」


 どちらかといえば、私の姉妹達は皆平均より背が高く、顔立ちも美人系だ。しかしそんな中、私だけ低身長で子供っぽい童顔である。おかげで、そういった趣味の人を寄せ付けがちであった。

 しかし今回クレセント辺境伯は、お父様のフィルターを通ってきている。怪しい趣向の人では無いのだろう。


「まぁでも特技に惚れたとか、意外とまともな理由かもよ?」

「でも浮ついた噂一つ無い伯爵様が、突然惚れるとは思えないわ。会ったことも無いようだし、やっぱり餌よ!」


 姉妹達が気になる話をキャイキャイと話しているが、私は「顔合わせのドレスを考えないと!」と大慌てのメアリに引きずられるようにして自室へと連れて行かれてしまった。

本日はあと2話程更新予定です(〃ω〃)


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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