チュリリ
保護して連れ帰った時にはどうなる事かと思ったが、必死の看病の甲斐があって「エナガっぽい鳥」の状態は日に日に良くなっていった。
餌も食べられないような状態だったので温めた砂糖水で栄養補給させたり、保温の為に湯たんぽを作ったり。少し回復してきてからは血の汚れを落とす為に水で濡らしたタオルで優しく拭くなど、毎日献身的に世話をした。
(だから寝不足で、ここ数日私の体調が悪いのだけど……この子が元気になるのであれば、そんな事どうでもいいわ)
◇
「うん……傷はかなり良くなってきたみたい」
野鳥には良くない事なのだが、数日間ですっかり私に懐いてしまった、このエナガっぽい鳥。飛べるようになってからは常に私の側に居たがるようになり、嫉妬深い性格のモモを怒らせている。一緒に部屋に出すと喧嘩になるので、モモには申し訳ないがここ数日は少し控え目に放鳥している。それでも鳥籠越しに喧嘩したり……いったい何を争っているのだろうか。
「ヨカッタネー」
ボタンは特に何も気にしていないようで、いつも通りのおしゃべりさんだ。エナガっぽい鳥は、ボタンの鳥籠には自ら寄って行ってまじまじとお互いに見つめ合ったりしているので、気が合うのかも知れない。
ボタンの赤色のほっぺと、白のモコモコが紅白になっていて、絵になる可愛さだ。
「……結局何の鳥なんだろう」
気がつくと私の肩や腕に止まっている、謎の鳥。あえて言うならシマエナガが近いが、ここはシマエナガの生息地ではないので、恐らく違う。心当たりがある鳥は全て図鑑で調べてみたが、どれも当てはまらなかった。
私が歌うと一緒に歌うように鳴いたり、踊れば周りをぐるぐる飛び回ったり、やけに人懐っこい。しかし虫や鳥の餌をあげると絶対に食ないので、仕方なく果物をあげている。元々人に飼われていた鳥が野生化した可能性も高そうだ。
「チュリリ」
餌としてあげたさくらんぼをペロリと平げ、鳴きながら私の頬に擦り寄ってくるモコモコ。さくらんぼが気に入ったのか「もっとくれ」と要求しているように感じる。
(う……正直言うと、このモコモコに顔を埋めたいわ)
しかしこれ以上私に懐いてしまうと野生に帰れなくなってしまう。残念な気持ちを必死に押し殺しながら、モモとボタンの鳥籠がしっかり閉まっている事を確認して、窓を開けた。
「さぁ、元気になったのだから森にお帰り」
最後に羽をひと撫でして、窓の外に腕を外に出す。名残惜しいが、お別れだ。
「チュリ……」
全く外に飛び立つ気配がない。ちょこんと首を傾げるようにして、まんまるの瞳でこちらの様子を伺ってくる。まるで「僕のお家は、アルエットのお部屋だよね?」と言っているように見える。
「か、かわいいぃぃ」
心臓を撃ち抜かれるとはまさにこの事。謎のエナガっぽい鳥との勝負に敗れてしまった私は、窓から外に出していた腕を引っ込めた。
(こんなに可愛い鳥に懐かれてしまっては、無理矢理野生に帰すなんて……出来ないよおおぉぉ!? ……無理です。前言撤回させてください!)
予想以上の可愛さにメロメロになってしまい、我を忘れてモコモコの羽に口付けるようにして顔を埋める。許してくれているのか? 鳥は微動だにしない。
「大好き……」
心地よいモコモコを堪能し顔を少し浮かせ呟いたその瞬間、今まで動かなかった鳥は、バサバサと音を立てて高速で飛び立ってしまった。
(残念……だけど、これでいいのよね。広大な自然の一部として生きるのが、あの子の幸せよ)
子供が巣立って行ってしまったような、感傷的な気分になってしまったその日の翌日。寝不足ではっきりクマができてしまった私の元に届いたのは、まさかの婚約の申し込みであった。
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