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雪と花弁(2)

「……やはり先程のデザインの方がお嬢様にはお似合いではないですか? もっとお腹が大きくなっても大丈夫そうですし。これだと想定以上に大きくなった時に、サイズ直しが難しそうです」

「成る程、やはり専属侍女は見る目線が鋭い。君自身の好みはどうだ? 本人の好みが1番だろう」


 話が急に私に振られる。鏡に映っているのは、真っ白のウエディングドレスを着た自分。当然のように春に予定されている結婚式の為の準備は進んでいて、今日はクレセント領の屋敷の応接室で、ドレスの試着が行われていた。


 ドレスは勿論オーダーメイドなのだが「幼くなりすぎないデザインであれば何でもいいです」という私の希望を受け……何故か10着もドレスが仮縫いされるという事態に陥っていた。勿論着る人間は私一人である。


「何着でも選ぶと良い」と伝言を残されたゲイル様と「好みも重要だが、やはり歩き安さや重量も大切だろう」と機能性重視のロバート様、「幼いですがお顔が整っているお嬢様は何でも着こなしますから、あとはお腹との兼ね合いでしょう」と数ヶ月後の姿を見据えて品定めするメアリ。ちなみにデザイナーの方も「まだまだデザインは沢山ございますから、何枚でも仮縫いしますよ」と大張り切りである。


「えっと……どれも素敵で選べないので、皆が良いと思ったドレスにします」


 そんな私の返答を聞いて、わいのわいのと、私に似合うウエディングドレスNo1選手権を開催してしまうクレセント伯爵家の使用人達。皆自分が晴れの日に着るドレスを選ぶかのように楽しそうで……春になれば彼らクレセントの人々と本当に家族になれるのだと思うと、心の奥がぽかぽかと一足先に春の陽気になっていく。


 窓の外を見ると、今日は冬にしては天候も良く、太陽の日差しを受け積もった雪がキラキラと光を反射して輝いていた。


「折角だから、護衛の皆様にも見てもらって来ます」


 似合うドレスNo1選手権を取り仕切っているメアリとロバート様に声を掛け、最近お気に入りの白いフワフワの毛皮で出来たショールを羽織り、応接室を出て庭の片隅にある彼らの詰所を目指して歩く。王都のクレセント伯爵邸からついて来てくれた護衛達はゲイル様の好みにも詳しい。その為彼らにも、どのドレスが似合うか見てもらって意見を聞きたかった。


 ゆっくり中庭まで歩いて来て、一旦休憩の為にベンチに腰を下ろす。この中庭は光が入るガラスの屋根が設置されており、温室のようになっている。雪が積もる度に使用人達が雪下ろししてくれているため、ちゃんと冬でも光が入り、外よりも暖かい。お腹の子供の為にも決して無理はせず、雪が積もる外に出る前に、余裕を持って休憩を入れる。

 ショールのフワフワをお腹にも被せて、空を見上げた。透き通るような冷たい空気を纏った淡い青色の空は……そろそろゲイル様がお生まれになった季節だと告げていた。


「お誕生日おめでとうございますって、直接言えるかな?」


 婚約して初めて迎える、愛する人の誕生日。26歳になったお祝いを、本当は私が1番初めに言いたい。……ううん、ゲイル様はお仕事を頑張っているのだから我儘を言ってはいけない。


 視線を下ろし、ベンチの隣に植えられていたクリスマスローズに手を伸ばす。花言葉のように、私の不安を取り除いてくれる事を期待して……ドレスと同色の花弁に触れた。




 ジャリ、ジャリ、と雪を踏むような音が聞こえる。見回りの護衛だろうか? ドレスについて意見を聞きたかったのでちょうどよかったと思いつつ、クリスマスローズから手を離したその時だった。


「……アルエット」


 パッと顔を上げ、声のする方に顔を向ける。だって、ずっと聞きたかった声、ずっと会いたかった姿……


「ゲイル様!!」

「こんなに冷える中外でいるなんて、皆止めなかったのか? 表にいるはずの使用人達の姿も見えないし、皆一体何を……あぁ、ウェディングドレスが出来たのか。丁度いいから座ったままでいい」


 立ち上がろうとした私をゲイル様が制止した。怒られないようにフワフワの白いショールを体に巻きつけるようにして、寒くないですよアピールを試みる。


「今、私に似合うウエディングドレス選手権で皆忙しいのです。何故か10着も仮縫いされていて選べなくて……ゲイル様も是非1票を投じてください」


 護衛達に聞きに行く手間が省けた。だって、ゲイル様の好みは本人に聞くのが1番早い。


「そうだな、後で参加させてもらおうか」


 そう言いながらベンチに座った私の足元に跪くゲイル様。その表情はどことなく固い。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

次回の雪と花弁(3)が最終話になります!

いつも通り20時更新です(〃ω〃)

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