共に殺め(2)
私が希望したのは、マリオン様との直接対面しての会話。ミーリア様が同席しても構わないから、そこで愛するゲイル様の亡骸を私に返す交渉をさせて欲しいと、希望した。そして、私の元にゲイル様が帰ってくるのなら、どんなツテを辿ってでも王太子を匿うと約束したのだ。
「条件を呑みますわ。……ごめんなさい、愛する人を失ったアルエット様にこんな取引をさせて。必ず、アルエット様の希望を叶えてみせます」
気まずい空気が流れるが、本当は今ゲイル様は私のドレスの中にいる。ミーリア様に嘘を付いた罪悪感で心臓が痛くなるが、実際に王太子は特殊部隊が守っている為完全に嘘なわけではない。
「いいえ……大切な人を守りたい思いは、私にもよく解りますから」
この取引での本当の狙いは、マリオン様が首から下げている水晶達だ。
きっと、生きている限りゲイル様とマリオン様は、何度でも戦う事になる。腕っ節だけなら絶対に負けないであろうゲイル様も、あれだけの能力の水晶を持たれた状態ではまたマリオン様に負けてしまうかもしれない。それこそ本当に私を囮にされる可能性だってあるし……私のお腹の中にはもう一人、狙われる可能性が有る子供がいる。この子を安全に生み育てる為にも、敵の力は削いでおきたい。あの水晶達さえどうにか出来れば……。
その為に危険を冒す私に、迷いはなかった。
私の前を先導するようにしてミーリア様が歩く。私は『殆ど夜会にも出ずに領地に篭っていた、鳥マニア引きこもり令嬢』だった為ソマーズの使用人達に面が割れておらず、『タンクレット様が趣味に走って連れてきた何処かの女の子』程度の認識しかされていないようだ。見た目がお子様なのもあってか、特に変装などせずとも全く止められずに、ミーリア様と一緒にマリオン様の部屋の前まで来られた。ドレスのスカートの中のゲイル様も大人しくついて歩いて来てくれているし、ここまでは順調だ。後は……隙が作れるかどうかと、ゲイル様が私の意図を汲んでくれるかどうか。
「――アルエット様、では私がまず入室しますので、合図が聞こえたら入ってきてください」
黙って頷いた私を確認してから、ミーリア様がドアをノックした。13歳にしては頼もしいその表情に期待しつつ、ミーリア様の行動を見守る。
「マリオン兄様、私です」
「入れ。どうかしたのか?」
ドアを開けても見えない位置に隠れておいて、ミーリア様が入室しドアが閉まるとそっとドアに耳を当てて中の様子を伺う。
「――だから、お願いです。私の話も聞いて」
「――何度も言うが、駄目だ」
「――そんな事したって、きっとソマーズはあの国の手下にされるだけよ! マリオン兄様は間違っていますわ!」
どうやら言い争っているようだ。この言い争いの後に突入させられるのね……ミーリア様はなんて交渉が下手なのだろう。全然上手くいく気がしない。頼もしかったのは表情だけでした!!
「……これは酷いな。もう能力を使って脱出するか?」
――アルエットのお陰で既に人質は取れたしな。と低くて小さな声がスカートの中から聞こえてくる。
……ゲイル様は何かあればすぐに、私を水晶に込められた力で転移させ助ける気だったのだろう。だからきっと、私の好きなように返事をさせてくれたのだ。
「……いいえ。出来るならここでマリオン様の力も削いでおきたいのです」
「やはり発想がカメリア子爵と似ているな。……私ならアルエットを連れ帰る方を優先するが、まあ良い。危なくなったら問答無用でアルエットを転移させるから問題無い」
あまりにも中に居るミーリア様からお声が掛からない為、痺れを切らした私(と、スカートの中に潜む鳥状態のゲイル様)は、勢いよくドアを開けて部屋の中に突入して行った。
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