不快でも(1)
夏の終わりからずっと体調が悪かった。今思えば悪阻だったのだと理解できる。元々毎月の物も不順だったから全く気が付かなかった。
ゲイル様の居ない世界で生きていくなんて悲しすぎてこのまま死んでしまおうと思っていたが、お腹に子供がいるとなれば話は別だ。いくら食べる気が起こらなくても、少しは食事を取るようにしなければ。見た目だけ凝られたピンク色の甘ったるいクリームが乗ったケーキの皿を手に取り、クリームを避けてスポンジ部分のみをゆっくりと食べる。血糖値が上がってきた為か、お腹の子の声も少し張りが出てきた。
「まーまっ、まーまっ!」
どうやらお腹の子はまだ「まま」しか話せないらしい。それでも、私を母として慕ってくれるこの子が存在してくれるのが嬉しかった。この指輪についた水晶の力で聞こえるという事は、間違いなく「幸福の白い鳥」の子。ゲイル様と同じ能力が有るおかげで誰から見てもゲイル様との子供であることは認めてもらえるだろう。
クレセント伯爵家の血を途切れさせずに済んだ事。ロバート様の「孫と一緒に研究したい」という夢を潰さずに済んだ事。何より、最愛の人との子供を授かれた事。この子が私の生き続ける意味となり、今からどうするべきか思考する原動力となる。
こんな場所で生を終える訳にはいかなくなった。元を辿れば、私はゲイル様に命を渡しに来たのに……結局私は生きて帰る道を選ぶ。私は『愛する人』を助け死ぬのではなく、『愛する人達』のために、生きなければならない。
「もしゲイル様が生きていらっしゃったなら何と仰っただろう……喜んでくれたかしら?」
きっと一瞬驚いたような表情をして、すぐ嬉しそうにお腹の子供ごと私を抱き上げてくれただろう。……もうその幸せな図を見ることは叶わないと分かっていても考えてしまう、3人家族になった姿。
……ううん、弱気になってはならない。邪念を振り切るように、頭をフルフルと横に振る。
とにかくこのお腹の子のことは決してバレてはならない。ここはゲイル様を殺した張本人達の屋敷。その血を引く子だと気が付かれてしまえば危険だ。
窓に近寄り、嵌め込まれた鉄格子を握って揺らしてみるがビクともしない。念のためにドアも引っ張ってみるが、外から鍵がかかっている。どうすればこの部屋から脱出できるのだろう?
「……私に力があれば、あんな変態殴り殺してやるのに」
マリオン様は体格も良く強そうだが、線の細いタンクレット様くらいなら……と恐ろしい発想をしている自分に驚いてしまう。ゲイル様に「何でも武力で解決しようとするのは嫌い」とか言い放った癖に、結局は武力で解決しようとしているなんて。
「チャンスは一回だけ……」
朱に交われば赤くなる……では無いけれども。結局武力に頼り切った戦術を立てる。たった1回きりのその戦術をサポートしてもらう為に、誰の能力なのかは知らないけれども、指輪に込められた能力を使い、鳥達を周りに呼び集めた。
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